Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

苔の中庭

転勤して驚くことは多々あれど、その一つにここの中庭。
色んな中庭があるが、こんなに広い苔庭を持つ所は珍しい。
建物と建物の間が日陰になるからだろうが、
それにしても、遊歩道のように小さな抜け道もあり、
公孫樹の木もそれなりに大きなものが植わっていて、
そして何故に建物間にこの広さを取ったのか、
元々山地というか、坂になっていたのを造成したのか、
段差を中庭にしてしまったのか、
一面に苔が生えている。見事なほどに。


苔の手入れは難しい。何となれば雑草で駆逐され消えてしまう。
綺麗な苔を残して行くのは大変なことなのだ。
湿気と日陰さえあれば苔は勝手に生えているだろうと、
そういう手合いではない。そういう偶然や僥倖で得られる、
生半可な広さではない苔の中庭が続いている。
どういうことなのだ、ここは?


まあ、誰も踏み荒らさないというか、
踏み荒らしに来る暇もないというか、
人通りから外れていると言えばそうかも知れないが、
ふと心だけこの柔らかな苔の上で寝転びたくなるような
自分が抹茶色、いやいやそこまで鮮やかではないにしろ、
苔緑に包まれて、ふと木々の間に雲隠れしてしまいたい、
そんな気持ちに駆られながら、新しい職場の窓から見る景色。
中庭。


むろん世間様からは見えない、建物と建物の間の苔のベルト。
moss、green belt 緑地帯というと大袈裟だが、
建物と建物の間のささやかと言うには結構な広さは、
グリーンベルトの様相を呈していると言っても過言ではない。
贅沢な土地の使い方だ。


夏ともなればこの公孫樹が茂り木陰を作り、
秋ともなれば黄葉で染まり、その落ち葉が一面に降り積もるはず。
それを取り除いて、また、苔の緑を保つ作業は一体誰が?
緑溢れる環境、目に優しいと言えば優しい。
遠くを見れば、工場地帯の煙突の炎が見える屋上。
団地や高速道路に囲まれた中にあって、
ここに、この職場の庭を見る限り、別世界。


苔緑の色に癒される、そんな年齢になったというのか。
誰も見向きもしない窓の外の景色、外というより、
下を見下ろしながら、その間近まで、側まで観に行く元気も無く、
建物の間を眺めやる、机を離れて歩くひととき。

苔の話―小さな植物の知られざる生態 (中公新書)

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苔のある生活

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