私という患者

私は患者である。名前もある、職業もある。
（ただし、心理的にはダブルスクールならぬ、ダブルジョブ的）
いささか、今回の入院で、醒めた部分と斜に構えた部分を持っている。
医者から見れば、すぐに退院できる軽い病人でも、
患者から見ると、数少ない有り難くもない入院体験を重ねるのだから、
嬉しい訳がない。医者にとっては毎日取り扱う種々雑多な取扱商品が、
ナマモノ。一人一人の人間である訳だが、
余りにも日常取り扱う個体数が多いので、
ベルトコンベアの上の逢瀬のような場合も多いのでは。
実際、何度も顔を合わせる場合もあるかもしれないが、
ホームドクター的な、慢性の病状の管理であって、
急性の場合は治れば、それまでのお付き合いにしか過ぎない。
処理済の判子を押されて、バインダーで綴じられる記録でしかない。
ただ、患者にとっては、それは特異な体験であり、
病気そのものや入院・受診・検査そのものが、
曰く言い難い記憶の片鱗となって、海馬の中で乱反射する。

退院していかがでしたか？　
１昨日から痛みが強くて、ずっとお腹を壊しています。
風邪でも引いたのかな、熱は出ましたか？　出ない、そう、
整腸剤を出しておきましょう。
あのう、まだ痛みはずっと続いているんで、不安なんですけれど、
お腹の中で硬い塊がのっかっているというか、
揺れてる感じが続いているんです。
検査数値的には何の問題もありません。気にしすぎないことです。
この間、お話した検査はどうしますか？　する、そう、
じゃ、予約時間と説明は後で聞いて帰ってね。

予約時間より1時間遅れ。まあ、それは気にしない。
でも、どうして退院後初の内科の診察で、問診だけなのか理解できない。
入院中も1度しかお腹を触診しなかった。退院しても、触診無しなのか？
先生、消化器内科じゃなくて、消化器外科の先生？
「検査数値的には」以外の言葉は、持っていないのか？　
そこまで無口じゃ開業は出来ないなーって、もう少し安心させてくれよー。

10日後のファイバー実施に関して、初めてという事で、
年配の看護師から懇切丁寧に説明。
最初から麻酔に関しては、ご遠慮申し上げた。
出来れば、直接観ておきたいから。
わかり易く、質問しやすい、説明、ありがとう。
「何か不安なことや訊きたいこと、今日の説明を聞いて、
忘れたりわからなくなった事があれば、いつでも電話してくださいね」
本当にありがとう。そう言って下さると、ほっとします。

産婦人科。電子カルテの血液検査の画面を見せてくれながら、
良くなったねー、検査では問題ないね。
せんせー、まだお腹が痛くて、中に何か入っているような違和感が、
ずっとあるんですけれど。
ああ、盲腸や開腹手術した人、この手の病気の人は、多かれ少なかれ、
お腹の中に癒着があって、違和感があるっていう人、多いんだよね。
まあ、気にし過ぎてもなんだけれどねえ。
更年期だと、色々言って来てうるさい人がたまにいるけれど。
何か、気になる症状とか持っていて不安なの、あ、そう、肩凝りね、
更年期の症状の一つではあるわなあ。中国四千年の漢方薬出そうか、
まず、どれ、診てみようか。（お腹を押さえて）
この辺痛がっていたけれど、今日は大丈夫だね、柔らかいし、
今の所心配ないと思うよ。もし、年齢的に更年期とか心配だったら、
ビタミンでも飲んでみるかね、CとかEとか、僕も20年来飲んでいるよ。
薬局で買うと高いよ。漢方薬も出せるし、ホルモン検査しておくかい？　
（･･･うーん、先生、町医者になれる、よくしゃべるキャラクターなのかな、
さっきと対照的だなあ）

レセプトの打ち間違いもある。書類上のことも、
何やかや。結局９時半から３時まで。
昼食を除いて病院内をうろうろしていた私。
それから職場に顔を出して、帰宅して8時前。
今日、嬉しかったこと。夫の元主治医、憧れのT先生を、
朝の地下駐車場からチラリとお見かけしたこと。
午後診と夜診担当なのに、こんな朝早くから来てるんだ。
夜診が終わったら、夜9時ぐらいになるのになあと思うと、
やっぱり尊敬の念が湧く私。（どのお医者さんも働いてるのに、ね）
えこひいきなのは、わかっているんだけれど、
私の主治医の先生には、どうしても違和感があるなあ。

25年のお付き合い、ホームドクター胃腸科内科の先生の、問診、脈診、
喉の横触ってもらって、あーんして、胸・背中打診聴診、血圧、
お腹ぽんぽん触診、説明、投薬。
このスタイルに慣れている私にとっては、体に触れない内科の診察は、
やっぱり、「精神的な不穏の種」でしかないのだった。
「診方」の概念の根本的な違いといえば、それまでなんだけれど、
私は患者。診て貰った安心感が欲しいだけ。
それだけ、なんだけれど。

メイシーちゃんのおいしゃさん