モーリス・センダック死去
仕事で隣県まで出向いたが、朝からぱらついた雨も、
目的地に着くや否や上がって、ここでも晴れ女の面目躍如。
それにしても、上げ膳据え膳で美味しいご飯を頂き、
ぶらぶら散策できるのはありがたい。
連休明けで、ちょっと気合を入れて仕事をと思っていたが、
これはこれでありがたい出張ではある。
今日の出来事で心に残ったのは、
残念ながら美味しい食事ではなく、著名な童話作家の訃報。
河合隼雄があちらこちらで紹介し、心理学業界では話題になり、
近年映画化もされた(個人的には絵本の映画化は好きではないが)
有名な作品『かいじゅうたちのいるところ』の
モーリス・センダック氏が昨日亡くなったという。
83歳。老父と余り年齢が変わらないので、余計に堪える。
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しかし、私自身はこの作品よりも、別の作品の方が好きだ。
何だか説明され尽くした感のある作品に対して、
その講義・講釈、解説、説明を聞いてしまうと途端に色あせてしまった、
そんな作品が私にとっての『かいじゅうたちのいるところ』だ。
作品世界に付いて何も知らずにいれば、面白い本だな、
変わった本だなと好きでいられたのかもしれないが、
残念ながら、あれこれあれこれ述べられたもの、
書かれたもの、論じられたものを知ってしまうと、
自分だけの思いで抱くことの出来る純粋な物語世界が破壊されてしまい、
一度知ってしまうと、(分析してしまうと)、
何だか解剖された残骸のようにも思えてしまう作品になってしまった。
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というわけで、私は決してハッピー・エンドとは思えない、
(実は私はハッピー・エンドで無い話は余り好きではない)
優しくも残酷なこの物語が好きだ。
そしてセンダック自身に付いても、個人的に知りたくないことも多い。
それは、かつて大好きだった井上ひさしが、家庭内でどうだったか、
どんな言動をとっていたかを知ってから、純粋に作品が読めなくなり、
「個人」への印象が「個人の作品」を鑑賞するのに邪魔になって、
もう知らなかった昔には戻れない、というのを味わってしまったからだ。
大学の研究者は個人的な背景を重んじながら、
ああだこうだと論じればいいだろうが、一般人には必要の無い情報。
ネットやその他、昔ならば耳に入らないようなことでも、
安易に世間に知れ渡ってしまう今日この頃、
研究者だけの、閉じられた世界だけの情報は無いに等しい。
というか、守秘義務の関係ないところで尾ひれが付いて、
主観で受け止めるにはしんどいなあと思うことでも公開されてしまっている。
ありのままを受け止めるのは大事なことかもしれないが、
それはそれで、余計なお世話ではないかと思うことも増えてきた昨今。
モーリス・センダックの死は、私の心に少しばかり波風を立てた。
学ぶのが楽しかった頃、学ぶのが苦しくなった頃、
何も知らない方が良かったのかもしれないと思うことが増えたこと、
知った上で知らない振りも死ながら生きていかなければならない、
知っていても平然と受け止めるには、まだまだ修行が出来ていない。
落ち込むことがまだまだある今、
彼の死は少しばかりそんな日々の思いを掻き立てた。
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