イメージトレーニング

そう、痛くない痛くない。自分の内臓に言って聞かせる。
この子ったら、ちょっと急に臆病になってしまって、
本当に、難しい。
だって、眼に見えないからね。本当のことは、わからないからね。
眼に見えないことは、世の中にたくさんあるし、
本当のことでも、わからないことはたくさんあるというのに、
一度むずかったら、なかなか言う事を聞かなくてね。困ってしまう。

あれは、小学生の頃、保健室にかかっていた内臓の見本。
何故か、たくさんの寄生虫がびっしりの内臓の見本。
何で、あんなものが飾ってあったんだろう。
私が小学生の頃って、そんなに日本の衛生状態って悪かったのかな。
うん、あれはインパクトあったよねー。
サナダムシだの回虫だのって寄生虫がさ、うじゃうじゃしている内臓見本、
ベッドの横の壁にかかっていてさ、必ず見えるんだよね。
ああいう悪趣味なものが飾ってあるのが、保健室って思ってたよね。

ぎょう虫検査って、必ずあったしさー。え、今でもあるの？
あるよ、娘だって毎年しているし。えー、大人がしないのに？

今から思ったら、怖い場所だったよね。人体模型や神経の図や、
で、消毒薬臭くってさ、部屋の中が、空気が違うんだよね。
保険の先生も、従軍看護婦の経験があるっていうおばあちゃんで、
えー、そうだったのー？　そうそう、お医者さんも軍医上がりで。
そんな結構おどろおどろしい保健室に、よく寝に行ってたねえ。

・・・ああいうもの見せられて育つとさ、自分のおなかの中って
あんまりきれいじゃないのかもしれないって、
　　　　　　　　　　　無言で刷り込まれた感じしない？
ほんとだよね。そうかも知れない。言われてみると。
自分のおなかの中を開けたら、びっくり！！　ていうほど
「抵抗」、あるのかもね。

でもさ、そんなこと言ってたら、お料理なんてできないじゃん、普通。
魚だって、お肉だって、ホルモンだってさあ。
それとこれとは別よー。でも、栄養もばい菌も口から入って来るんだよ。
みんな、口から入って来るんだもんねえ。
ま、ねー。よく言われたよね。「歯は見える内臓」とかさ。
後は、みんな見えないんだもんねー、普通。そ、普通ね。

でさ、思ったわけよ。きれいな内臓、あんたはきれいな内臓って、
言って聞かせてあげないと、この子納得しないんじゃないかなあって。
でもね、なんだかんだ言っても、この歳まで生きてきたんだから、
小学生の頃の「うぶ」なままでいられないでしょ、
いくら内臓だってさあ。金属疲労じゃなくて、思いっきり疲労よ。
そこをね、大丈夫大丈夫ってあんたが言ってあげないと、誰が言うのよ。

スプラッタじゃない。ポンコツでもない。
繊細で、暖かで、幾重にも慎重に重ねられた膜、膜、私の内臓。
私が生きている限り、私と共に食べ、吸収し、機能し、
生かし生かされる一蓮托生の、私の内臓。繊細な世界。
でも、私が決して直接眼にすることの無い世界。
もしも手術が必要になったら、
もしも寿命が尽きて、予定通りにドナーになったら
誰かの手で触れてもらえる、私の内臓。
私の知らない世界。私を内包する世界。

静かに、イメージしてごらん。
ベビーがおなかの中に居た時のように、私の心が
血管の1本1本の隅々まで、愛してる愛していると囁いたように
その道の、その筋の専門家が、分け入っていくように、
自分に言って聞かせてごらん。

『だから、私たちの体は無限の表面でできている。
無限の表面が折り重なった有限体である私たち、
私たちはその内部に無限を内包している。』
http://absinth.exblog.jp/m2005-07-01/#2109993
(今日は、このabsinthさんの言葉が、
　　　　　私のイメージトレニーングの源です）

静かに、イメージしてごらん。
あなたがあなたの中に入っていかないで、誰が分け入るというのだろう。
私、私の中に。