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履修問題に寄せて

高校での必修単位の読替え改ざん問題が紛糾している。
公立高校出身者としては、哀しいニュース。
別に公立高校だけはなく、当然私立だって必修なんてすっ飛ばして
入試用の科目ばかり教えているのが、現状だろう。
何しろ進学率は死活問題だから。
学校=入学者確保=進学率=人気=収入源。企業論理。


能力評価主義で社員の士気が失せ、停滞した某企業があったが、
教員の世界とて同じことだ。
主要科目の教師だけが真の教師のように扱われる。
愚かしいことにね。根拠のない差別化は甚だしい。
受験・入試に直結しない科目の教師は、
能力が無いかのように見なされたり、
進学校に勤務しない教員は、教員の落ちこぼれのように言われたり、
世間の歪んだ偏見と評価を受け継いだ価値観を持つ保護者と生徒に、
反発され、愚弄され、たばかられ、踏みつけにされる。


ある私学の教員の講師をしていた知り合いは、
昨年教えていた講師よりも、模擬テストの平均点を下げた
(3点ほどだが)という理由で解雇された。
入試科目の平均点を下げた教員は、採用後わずか1年で能無し扱い。
その教員の人格まで「格付け」されて、放り出された。
新任教諭を育てようなんて気風や気概なんて、ありゃしない。
公立は私学ほど露骨ではなくても、進学校という看板があれば尚更、
教師は単なる受験マシーンの、
      「ソフト」として代用されているに過ぎない。
機械扱いされているのだから、まともであればあるほど
心の病で休職する人間が増えても、当然のことだろう・・・と思う。


「実際の生活に役立つ教科や内容は、受験に関係ないからと
必要以上に軽視されて、マークシート用の科目ばかりが
人生に必要な教科・授業のように思われているのよね」と、
家庭科を教えている友人は嘆いていた。
別に高校に限らず、6年制中高一貫教育の所は、
ある意味もっとひどいらしい。
入試に関係ない科目は、学校の中でカリキュラム上の無駄飯食らい
冷飯食い同然みたいに扱われ、単位数をどんどん削られ、
削られるだけならまだしも、抹殺されて、
受験入試対策用の、他の科目に読替えになるそうだ。


だから、今回の大騒ぎだって、「学校現場」を特別扱いして
わざわざ大げさに取り上げるのも、なんだか妙な話で、
何処の企業でも、何処の職場でも(暗黙の了解上)やっている、
書類上の整備のボロ、ほころびつつきじゃないか・・・。
それを、今更、問題に?
その背景を論じることなく?
目的のために整えられる、書類上の体裁と実質の乖離を
何故、今更問題にって感じ。


今から問題にして、何らかの改革する気はあるのかなあ?
教育の理念も根幹も、揺らいでいる所に、カリキュラムの見直しを?
ある部署の人員確保のために頭数を揃える、
予算獲得のための机上の計画書提出、
それと同じこと。入試と進学率と教員確保と進路保障の癒着を?
珍しくも何ともないことが、今更公けになっていることが奇妙なくらいだ。
それとも、こんなふうに感じてしまう自分の感覚が麻痺しているのかな。
擦れてしまっているのかな。


地方の名門公立校は進学率を維持するために、
予備校並みの進路保障のために、
受験に関係ない科目を切り捨てているのだという。
予備校が少ない地方は、公立校が予備校の役目を背負っているから、
進路保障の観点からすると、やむを得ないのだという。
そういう問題か?


生徒は、もっとはっきり言っている。世界史みたいに覚えることが多くて
点が取りにくい科目を勉強させられるのは迷惑だ。
効率よく勉強して点を取って進学するためには、世界史なんかいらない。
必修科目にしているほうがおかしい。無駄なことはしたくない。
そいういう問題か?


入試に3科目しかない私立の大学。そこに進学するつもりの生徒は、
それ以外の科目は「無駄」だと断言、そう認識して行動する。
国公立志望の生徒も、自分達だけたくさん勉強させられて、
自由な時間がなくて不利だ、などとほざく。
やれやれ。無駄な努力はしたくないというが、そういう問題か?
高校に進学して、様々な科目をそれほどまでに勉強したくないならば、
高校に来るな、大学に行くなと言いたくなってしまう。


高校生の受け入れ先である大学側に、全く責任がないわけではない。
専門教育の場であって、全人教育の場ではない。教養は必要ない、
個人の適性・資質に合った限られた選択分野のエキスパート、
天才を育てる土壌として、学問の場、象牙の塔は存在するべきだ 
なあんてことを抜け抜けと言う御仁も
未だにいらっしゃるからなあ。参っちゃうよ。


駅弁大学どころか、少子化の波で「倒産」する大学も少なくないのだ。
専門学校なのか、単科大学なのか、総合大学なのか、下克上のランク化。
授業レベルもまちまちで、就職率やその他、いろんな面で
スタートラインから「不利」な新設校、
すでに「転落」「斜陽」であると見なされている既存校、
ネームバリューも実績もない「受け入れ先」としての体裁を繕うため
醜い青田刈りに奔走する、なりふり構わぬ経営方針。
教育は教育以前に資金源確保、学生数確保なのだ。
欠席日数も成績も問わない、やる気を見る(という名目の)AO入試
そこそこ内申があれば無条件合格の、指定校(特別)推薦入試、
親戚兄弟姉妹の入学実績があれば優遇の、縁故入学・・・。


実際、世界史の授業云々、教員の世界の人手不足。
科目による人材のバラつきは、世間様では話題にならない。
平均年齢も高い。採用人数が少なく、定年制を引いているから、
医師の世界よりも、高齢化が進行する度合いが高い。
そして、早期退職が見込めないと、露骨な圧力がかかる。
新任の採用を控えて、首の挿げ替えがしやすい講師に置き換える。
講師では継続した責任のある部署にはつけない。
しわ寄せが来た疲弊した正教員に、再び圧力をかける。
(強制異動だったり・・・ね)


これが教育の現場の現状なのに、
経済効果を考えたアウトソースの活用だと、行政職はのたもうた。
教育効果と経済理念をはき違えているお役人は、多い。
公立に限らず、私学でもそうだろうが、教師は激務だ。
(楽をしている一部の人間を除いては、心身共にハードな世界だと思う)
実際の勤労内容・実務の過酷さ、持ち帰り仕事、
保障されない研修時間。研究費用なんてある訳ない。全て自前。
職場によっちゃ無制限に近い残業の割に、給料は低い。
人事院勧告を無視・凍結した給料体系の下で、
評価制度が導入されて、企業のような上からの押さえつけの中
士気も落ちれば、モラルも下がる。
何しろ「進学校の教師」だけが、
   実力のある教師のようにランク付けされているのだから。


まあ、医師の世界と違って命のやり取りがないだけ、
安穏としていると言われれば、そうかもしれないが、
それは、問題のすり替えだな。そういう比較の問題ではない。
履修云々の前に、カリキュラムだけ気まぐれに変えてみたり、
選択科目を増やすことが、さも、個性ある学校の条件であるような
虚構を取り払ってくれればいいのだが。


アメリカが「GOAL2000」で目指した学力の育成は、
基礎学力養成の時間を食う、訳のわからない選択科目を減らして
カリキュラムを、全人教育的方向に構成することだったはずだ。
(ウロ覚えの記憶に間違いがなければ)
なのに、時代に逆行して、週休5日制の上選択科目を増やして、
名ばかりの学校の個性化を図り、入試に迎合した科目ばかりを偏重した。
その「ツケ」を、学校現場を取り巻く状況を無視して、
行政サイドのミスや、国家100年の計を無視した教育を断罪せず
高校サイドばかりを責めるのは、どうかなあ・・・と思う。


まるで、どこかの世界の問題とそっくりだ。
もっとはっきり言えば、どこかの世界と同じ、根本的に
人手不足なんですよ。ひ、と、で、不足。
受験に敬遠された世界史を教える教師、
世界史に限らず、無視軽視されている副教科、
文系の学校で敬遠される数学・物理の教師、
理系のコースで唾棄される古典・芸術科の教師。


パソコンを使えぬ教員が多くて、情報の授業など成り立たない。
だから普通の教科に読み替えせざるを得ない。
教える内容やカリキュラムを一から作らなくてはならない
時間と手間がかかって、成果がはっきりしない総合学習より
受験科目に読み替えて授業した方が、保護者も喜ぶ。
人手不足、人材不足、実利優先。単にそれだけのこと。

その他諸々、教育委員会が、行政が採用していないんだから、
履修計画表どおりに教える教師が、現場にいるわけないでしょ。
産婦人科医がいない所で、お産をしろと言っているようなもの。
教育の現場には人材がいない。
教育学部で、教員免許を出さないゼロ免大学があるんだから。


人手不足だということと、
教育理念が入試制度と連携して崩壊していることを
今更、何を? の気分で連日ニュースを聞いている。
そして、娘にどんな教育を受けさせればいいのだろうと、
暗澹たる気持ちになる。学校を、どう選べばいいのか?
何しろ、公立を蔑視する人は私学を祭り上げ、
私学をこき下ろす人は、公立に肩入れするからね。


医療の自由診療みたいに、教育はお金で買うんだという
共通理念だけが広まっているからね。
・・・不毛だよ。今回のニュース。今更。

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