Festina Lente2

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再び履修問題によせて

出勤前、今日も朝から、「世界史なんかやってたら、入試に不利だから、
履修問題なんかどうでもいい。早くマスコミが騒ぐのをやめて欲しい」
というような内容の現役高校生のコメントを耳にして、どっと疲れた。
これが国際化社会に向けて、小学校から英語や情報教育が必要、
ゆとり教育」で自分で考える力をつけよう、と育ててきた世代の発言だ。
小中高で植えつけられた、歪んだカリキュラム・学習観の賜物だね。
見事に自己中心的な発言。高校の教育現場だけが悪いのではない。


相変わらず議論が過熱している履修問題。本当に情けなくも白々しい。
公立の履修逃れを隠すために、私学を槍玉に挙げるのも、何を今更。
識者・有名人・裕福な家庭のお子様方は、公立に進学してますかね?
統計を取ればいい、大っぴらに。徹底的に追求したいなら。
学校現場を責める前に、なぜ私学に進学させたか振り返るといい。
そこを選んで入学させた保護者側が、今更、現場を責めるのならば。
「自らに、罪無き者は石を投げよ」の世界だよ、ほんと。


受験に加熱しているのは生徒ばかりではなく、親なのだ。
親の価値観、世間の価値観が為せる業、お上のカリキュラムなんて
どうでもいいのだ。そんなものを知って、学校選びをしていないはず。
何も今に始まったことではなく、公立と私学は全く別系統の経営。
矢面に立たされた公立校の対抗措置として、土曜補習等を始めとして
受験対策用単位の読替・カリキュラム編成に躍起にならざるを得なかった
現場の教員の気持ちなんて、実際の所わからないだろうなって気がする。


需要と供給の関係だ。入試に必要、保護者と生徒の要望に応える。
地域に根ざした教育。理想では食ってはいけぬ。
要は指導要領に沿ったカリキュラムは夏炉冬扇、絵に描いた餅だと
認識されているわけだから、こういう状態になっていることを、
今更、どうして、「すったもんだ」しているのだという気がしている。

学力を問い直す―学びのカリキュラムへ (岩波ブックレット)

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かつて、公立の受け皿として苦杯をなめていた私学は、起死回生策として
全面的に進路保障に力を入れた。いわゆる出口対策だ。
何のことはない、入試対策に力を入れ、大学進学の実績を作り、
アピールすることでより良い生徒を確保し、学校の質と財源を維持する。
ストレートな経営理念だ。受験に関係ない科目の教員を雇わず、
(当然、無駄な出費を抑えている)
入試・受験に必要な科目の教員採用を増やし、代替授業をさせる。
効率と実利、受容と供給のバランスの賜物だな、全く・・・。


公立はその間、安穏と過ごし、週5日制になり、大慌て。
現場に仲間割れという傷を負わせた、教科間の醜い争いの結果、
どの教科も仲良く痛み分けで授業時間を減らしたのではなく、
進路保障に影響があるとみなされた受験科目に、焦点が当てられた。
高校とはいかにあるべきか、等という哲学的・理想的・本質的な命題は
語られることは無かった。(その時間も無かった)


お上の意向(指導要領)に忠実であれば、地域の信望は得られない。
ある意味、「学校の質」を守る実利主流派に反対すれば、
露骨な強制異動が待っているだけである。
そして、休日返上で滅私奉公する良心的な教員が進学校に集められ、
土曜補習が始まる。学区内ご近所の覚えめでたく存在するということは、
教員個人の福利厚生なんて、全く関係ないのである。「公僕」だから。
どこかの世界の問題と同じだ。


公立中学校の教員をしている友人(数学)が、私に言った。
「自分に子供がいたら、絶対に公立に入れないよ。」我が耳を疑った。
お互い小中高と公立で育ってきた仲なのだ。
なのに、現場の人間が、そう断言する。
公立って何なんだ。それは、経済的なゆとりが無く、
進路保障してくれる私学に、行けない者の受け皿なのだという。


自由診療医療と同じ理屈だ。
金のある者が、いい教育環境を確保するって訳か。
(堂々と入試対応のカリキュラムを組んで、未履修科目を増やす事が、
進路保障を意味していて、いい教育環境なのだという認識そのものが
実際、大問題なのだけれど)


理想の医療(弱者への配慮のある医療)から離れて、
無理に「自由診療」を、全面的に持ち込もうとしているのが
今の政府ならば、なるほど、今回の問題についてうやむやに近い形で、
甘い着地点を設定した与党の姿勢と、見事に一致するはずだ。
つつかれちゃ、困る問題だからね。

公立小学校の挑戦―「力のある学校」とはなにか (岩波ブックレット (No.611))

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早期解決のニーズに応えたまで。ほう、なるほどね。
生徒は犠牲者だから。へえ。
現場の教員は、ろくでもない政策の犠牲になっていないとでも? 
必要があれば、甘いお裁きで迅速な解決を見たと発表するわけか、
生徒を楯にとって、お上の意向として突っ走っても、OKってことか。
それで、教育基本法まで改悪するんだな。必要があるからという姿勢で。
なるほど。見事な姿勢だ。現場の教員は所詮、捨て駒
ベテランを育成するまでも無く、安い給料で雇えてお上に言いなりになる、
まだ現場を知らない新任を大量に雇えば、済むこと。


体力的・経済的にも負担を抱えている経験者は、口うるさく
何かと色々、フォローに手間・暇がかかる。
メンタルヘルスマネジメントを導入する前に、
組織のひずみで傷ついている、現場で犠牲になった
人間の首を切って、財政難のもとに、合理的に
「能力不足」とリストラする訳だ。見事な経済論理だな。
赤字財政の「付け」はそれかい? 
不良債権国債を発行し続けるだけのことはある。


情報・実技教科、特に芸術科の教員の採用人数を減らし続けて来た。
各学校に音美書全て揃っている学校さえ少ない。指導要領に沿った
カリキュラム編成など無理。進路保障に向けての指導などできやしない。
(こんな学校に芸術系に進みたい生徒が進学してきたら困るなんてことを
お上は考えない。情操教育なんて言葉は死語だ)


高校のカリキュラム編成を指導要領通りに戻したければ、
入試制度改革を無視して行うことはできない。
一番手っ取り早いのは入試科目を増やすこと。昔のようにね。
もちろん私立の大学だって、1科目入試とか一芸入試とか、
基礎学力も無いのに、受験生を甘やかして、ちやほや祭り上げて、
個性を尊重している、なんていう言葉でごまかさずに、
入試処理に真剣に取り組む姿勢が必要だ、と思うけれど。


でも、今度はそうなると、受験料稼ぎに試験の回数が増えたりするから、
大学の教員が研究ができない、入試のおかげで雑用ばかりさせられるって
文句を言うようになるんだろうな。文句をいう回路が加熱して、拡大する。
大学病院の先生も、入試の監督云々と言ってたから、ほんと? と
耳を疑ったことがあった。(大学院生とかのバイトではなくて、
教授・助教授の先生が? 主治医がいない時に急変したら、
どうするのだろうって、思わず突っ込みたくなったけれど)
              

それにしても、着地点を決める前に自分からこの世を去った校長先生、
いろんなことで板ばさみになって苦しかっただろうけれど、
公立の某高校の先生のように、PTA(保護者側の言い分)と共に、
人員も人材も確保されない中で、私学以上の進学率(業務成績)を
求められている苦悩を、現場の教員と共に受け止めて欲しかった。
そういう意味では、あなたは尊敬できない。
でも、ま、仕方ないか。日本の組織はリーダーが理想を語れないし、
語ろうとはしないし、語る力が無い人をわざわざ選んできて、
管理職とし、更に上の組織が首のすげ替えを図るだけだから。


文科省が決めた通りのカリキュラム編成を守っている学校は、
世間様から、進学校のレッテルをはってはもらえない。
受験に必要の無い科目に、人員を割いている訳だから。
マニュアルの無い総合学科に真剣に取り組み、疲弊していても
実技の科目にきちんと取り組んでいても、
家庭訪問に追われていても、
「大学入試を出口指導に持たない学校の教師は
勉強しなくて楽でいいね」なんて、身内から陰口を叩かれて、
どうしようもなく、うんざりしているんだから。


だから、今回のことで槍玉に上がっている進学校に対しては、
冷ややかな目で見る同僚も多いのだという。
実際、お互いの手の内を知りながら、仲間割れているのだから、
今更何を言ってもねえ。教育の世界は、荒廃している。
虚しさのエンドレステープ、やりきれなさのメビウスの輪
なぞりっこしているみたいなもんだなあ。
片や、既設校・伝統校・進学校・モデルスクールと仰がれ、
片や、新設校・底辺校・困難校・統廃合候補校と噂される。

格差社会―何が問題なのか (岩波新書)

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だから、教育の機会均等を無視して、教育の世界に経済効率を求め、
競争原理を持ち込み、バウチャー制とか訳のわからない、
とっくに世界で廃止されつつある制度を持ち込もうとする
今の政治、お上の呆れた政策には、付いていけない。
教育の世界に、現場に、更なる格差と更なる十字架だけを背負わせて、
「改革」だと言い切るような、異常な事態には付いていけない。
医療の世界や、医師教育が危惧されているように、
国の根底を支える教育そのものが、改悪の一途を辿っている
今となっては・・・。


娘よ、かーちゃんは、これからどうしたらいいんだろうね。
日ごと君は成長しているというのに・・・。
この国は、この国の教育は、どうなっていくんだろうね。

格差病社会―日本人の心理構造

格差病社会―日本人の心理構造