Festina Lente2

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私はりんご

娘よ、ほんとに君は大きくなった。1年生なのに、26キロ、130センチ。
自分でお風呂も入れる、髪も洗える、お茶碗だって洗えるものね。
そんなふうに躾けたのは、かーちゃんだけれどさ。
一緒にお風呂に入れないのは、寂しいと思っているんだよ。
お片づけは、かーちゃんに似て苦手みたいだね。
頑固で頑張り屋で、本が好きで、音楽と水泳が好きで、友達思い。
シロにも優しいし、・・・ま、食べるのは超ゆっくりだけれど。


さて、娘よ、君はりんごは好きか?
おばあちゃんが作ってくれるウサギさんの形の?
それとも、丸齧りを勧めるかかーちゃんの?
りんごサラダを? りんごジュースを? りんごジャムを?
どんなりんごがいい?


娘よ、かーちゃんは、どんなりんごを君に与えることができるだろう。
真っ赤なほっぺたを? 甘い吐息を? 
みずみずしい知恵の木の実を?
そうだ、禁断の木の実だそうだ、実はりんごは。
そうだ、魔法使いのおばあさんの毒りんごかもしれない。
君のかーちゃんは、半分赤で半分緑のりんごかもしれない。
親としてはまだまだ未熟な、気持ちだけで体が付いていかない
ダダ漏れかーちゃんだ。うん、残念ながら。


娘よ。君を心から愛している。けれども、君に与えられるだけの
十分なりんごを実らせているかーちゃんかどうかは、わからない。
あの、THE GIVING TREE のように、
      無償の愛を与え続けることなんて
このかーちゃんには、無理な気がする。
自分の趣味や興味や勉強や仕事が頭の中に渦巻いている、
こんなかーちゃんは、君に何を与えられるだろう。


君は、知らないだろう。編み物が得意だったかーちゃん。
(そういう情熱は20代までかな)
スキーやスケートをする、かーちゃん。
カラオケで歌うかーちゃん、バーゲンで大喜びするかーちゃん。
君が見ているかーちゃんは、若いころのかーちゃんじゃない。
で、時々、君に何がしてあげられるだろうかと悩む。
いや、実はいつも悩んでいるだけで、何もできていないのだが。


籾殻の中に埋もれたりんごを、片手の感触だけで掘り当てる
あの喜びを君に知ってもらいたい。同じ体験をしてもらいたい。
そんなふうに、感じているかーちゃんは、ちょっと感傷的なんだ。
君に伝えたいことが一杯あるのに、その時間を削って
夜遅くまで家に居ない、そんなかーちゃん。
心の栄養を、どんなふうに与えたらいいか。
自分自身、わからないで、かーちゃんをしているんだ。


            
でも、生きている限りは、どんどん実らせる数が少なくなっても
実のなるりんごでいよう。約束しよう。
自分から、枯れたりはしない。
その代わり、はやりの味に品種改良はできない。
かーちゃんは、固くてすっぱい昔のりんごだ。
しっかり噛め。そして齧れ。
かーちゃんは、こんな味だったと覚えていて欲しい。
かーちゃんは、決して甘いだけのりんごではない。
そんなふうには、なれない。


でも、君を愛している。
心から、愛している。

おおきな木

おおきな木