立つ鳥は
卒業式のシーズン。色んな話を聞く。
「立つ鳥跡を濁さず」というが、最近はそんなことないらしい。
卒業式そのものを自分達の式だと捉えていない、
単に学校側のお仕着せだと思っているから、
自由にして当たり前、
今さら規律や制服や感謝など・・・と、
思っているものが少なく無いらしい。
「ありがとう」は、落第や留年じゃなくてありがとうであり、
きちんと指導してもらって、面倒を見てもらってではない。
「ありがとう」は、自由気まま好き勝手にさせてもらって、
思い通りにできて楽しかった、ありがとうでないと
言葉が出てこないらしい。やれやれ。
学校の前を通りかかると「卒業証書授与式」と書かれている。
しかし、聞くところによると、卒業証書も卒業証明書も
学校に置きっぱなしで帰っていく生徒は、少なくないらしい。
ただの紙切れだと思っているからだろう。
自分の3年間は、その程度のものだと思っているからだろう。
まあ、かくいう自分も卒業証書をどこにしまったのか
全く思い出せないのだから、大きな口は叩けないのだが。
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PTAから出る紅白のお饅頭も、生花で作られるコサージュも
教室に放りっぱなし。おまけに授業のノートや体操服も
靴も鞄も全て置きっ放しで帰っていくのだという。
たちの悪い者は、教室中にノートの花吹雪を
ちぎってばら撒いて、遊んで帰っていくのだとか。
もちろん掃除などする者はいない。
掃除どころか、授業中も好き勝手に物を持ち込み、汚して、
ゴミをばら撒き続けて生活してきた生徒に
「立つ鳥跡を濁さず」なんていうことを期待する方が
どうかしている・・・ということなのだろう。
期待しなければ、裏切られない。
しかし、期待しなければ現場というものは成り立たない。
一人でも元気に、一人でも次のステップへ、
それなりの進路が見つかるならば、期待以上ではなくとも
期待を裏切られたとしても、本人達なりに満足しているならば
それで良しとしなければならない?
本人達なりに? でいいのかどうか、疑問だけれど。
当事者の満足は、選択肢を捨てたり諦めたり
それ以上に省みたりしない所に、
やっとの思いで成り立っている場合が多いのだから。
当事者の満足は、双方送る者も送られる者も
噛み合っている事があまり無い・・・
それでも口に出さないダブルバインドのようなもの。
背に腹は変えられぬ、なすが堪忍なさぬが堪忍、馬子にも衣装、
顔で笑って心で泣いて、そんなところだろうか。
「式」というものに臨む心構えを
教えない教育を受けて育って来た者達。
教えられない者が多い現場。
形にこだわることも、形の美しさも機能美も存在感も信じない
中身とは何かも論議されない、式のあり方を検討もしない、
式というものを比較検討しない、改めて見直そうとしない、
粛々という言葉も賑々しさも無い、虚ろな集会の様子を
この時期、見聞きする度に哀しくなる。
無造作に組み立てられる会場、緊張感の無い空気、
好き勝手を自由と思い違う、主役のはずの若者。
そんな時、テレビから見るアカデミー賞の
「式」そのものは色んな思惑が交差していても、
まだ「式」らしい。
テレビに映るから、「らしく」できるのかも知れないけれど。
自分が望んだとおり、認められても認められなくても、
評価されても評価されなくても、
それがどんなに切なくて悔しくても、
この場に立つ事ができる、招かれるという「式」のあり方に
ある程度、敬意を払っているのがわかる。
批判を抱いていたとしても、無視できない存在。
周囲の思いが、「式」そのものを高めている。
本当は身近な「卒業式」が、そういうものであればいいのだけれど
残念ながら、一人一人の心の中で節目となる、
記念となる「式」は、なかなか見出せないものらしい。
育ててきたと思っている者の、或いは周囲の期待が重いからなのか、
去っていく者達はゴミを撒き散らし、身軽になって
また、次の場所に新たなゴミを撒き散らしに行く。
本当のところは、わからないけれど・・・。
見聞きする限り、卒業式は私が知っているものではないようだ。
残念なことに。
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