1日人間ドック

田舎へ向かって地道を走る、45分のドライブ。
職免が連続。こんなこと、仕事に就いて初めての経験。
2年ぶり、去年度は介護休暇中で、申し込みそびれたから。
ピンク・ブルー・グレイのソフトな色調、ホテル仕様の待合。
充実した雑誌類、検診後に飲む豆乳・ウーロン茶。
何よりも応対が丁寧で、一般外来と完全に分けられているクリニック。
おまけに一箇所一箇所｢○○様」で呼ばれて、(ここでは違和感が無い）
看護師（検査技師）確認のもと、検査室に招かれ入室。

例えば採血。
「今までに採血で、気分が悪くなったことはございませんか」
「いいえ」｢それではこのまま座って採血させていただきます」
（「はい」だと横になって寝て採血）針を刺した後も
「ジンジンしたり痺れた感じはありませんか」
採血中と採血後も、気分はどうですかと尋ねてくれる。

婦人科でも胃カメラでも、前もって看護師による聞き取りがある。
ある意味、いきなり｢先生」｢お医者様」と向き合うよりも、
･･･確かに話し易いかな。
それにしても、どうして申し込んでから半年以上も後に、
設定されるのか、検診日。
まあ、仕事に差し障りの無い時で良かったけれど。

何故か眼圧で、看護師さんが機械に慣れていなかったのか、
左目だけ７回も取った。３回の平均を取るのに、エラーが出たとかで。
私は瞬きせずにいるのに、ちょっと苦労した。
エコーは女性。ここはゼリーも温めてくれているし、
終わった後は、熱いお絞りを渡してくれる。
肺機能検査で、咳や痰が続いているせいか、
２次感染の副鼻腔炎のせいか、なかなか深呼吸ができない。
うまく息を吐き出すこともできずに、むせて咳き込む。

夏の精検があったので、前もってにバリウムから胃カメラに変更。
がんセンターの様に経鼻用の細いファイバーの、経口使用ではない。
従来の太いもので、おまけに喉へのキシロカインの効きが悪く、
私にしては珍しく嘔吐反射。医師一人に看護師二人。
肩と背中をそっと支えてさすってくれて、声をかけてくれるので
とっても安心。終わったあとも嗽の後、丁寧な説明。

２年前のX線。造影剤で映し出された変形している12指腸潰瘍。
もはや球部には見えんなあ。胃の萎縮は中度とのこと。
痛まないだけましってことか。写真を貰って最終面談（内科診察）へ。
駐車場チケットの延長も欲しい。
ブスコバンの影響が検査後に出てきて、眩暈、おっとっと。
これでは運転は危険だから、いったん休憩・昼食へ。

40才からの頭の健康診断 脳ドック最新版―人間ドックだけでは足りない

医者いらず老い知らずの生き方

どうして私がこのクリニックを選んだか。
検診後、昼食をここで取りたかったから。54階にあるスカイラウンジ。
ランチバイキングの内容が知れている割に、お値段は安くない。
でも、何よりも関西空港、KIXを見下ろして海を眺めながらの昼食、
これこそがOFFに、今の私に必要で、相応しいから。

１時間半の間に、私はどれくらいの飛行機を見たことだろう。
小さな子供のように離陸を待ちわびて、
滑走路にお行儀よく並ぶ色とりどりの飛行機、ジャンボジェット達。
そんな短い助走で鉄の塊が飛んで行くとは、今だに信じられない、
take-off 　take-off 　take-off 　take-off 　take-off ･･･
いったい何機が飛び立っていったことだろう。

機上の人は知らないだろうな。
食事をしながら、空港島を眺めている人間の羨望の眼差しを。
空虚な憧れを、胸に広がるやるせなさを。
機上の人になりたかったな。
私をどこかに連れて行って。どこか遠くに。
仕事も家族も何もかも忘れられる、どこか遠くに。
タイプAの傾向強しなんて言われなくて済む、
年齢も国籍も問われない、布団でぐっすり眠れるようなそんな国へ
連れて行ってくれる旅は無いものか･･･。
いやそれは、飛行機に乗らないで行くものでは？
黄泉の国へ降りて行くようなものでは？
　

茫洋とした春霞に覆われた景色、薄曇の空のした、
波の上をのんびりと航跡を残して、かわいい船が行く。
空港や明石大橋ができたお陰で、すっかり衰退し、
消えてしまった高速船やフェリー。見えるのは小さな船ばかり。

この穏やかな早春の景色の中に、溶けてしまいたい気分。
じっとこのまま眺め続けて居られるならば･･･、
この高さから同じように自分も飛んでいけるのならば･･･。
魂だけでも空に舞い上がってしまえるものならば･･･。

検診後のけだるさの中、「明るい鬱」に落ち込んで行きそう。
いやいや、今日はまだやる事がある。
夜はコンサートに出かけなければならない。
せめて、昼と夜とは別の顔。
気持ちを切り替えて弾みをつけて、
「明るい鬱」をやり過ごそう。

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