Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

日陰の沈丁花

職場にはそれなりの体裁を整えるための「庭」がある。
いわゆる環境整備の一環として、植えられている植物群の
管理をする人も何人かいる。ご苦労様です。
知っている人にはわかっていることだが、
植物というものは手間がかかる。愛情がいる。
水や肥料をやっておけば適当に育つ、というものではない。


人間一人一人に個性があるように、植物にだってある。
種類によって育て方が違うものもある。
お日様が好きなものもやや苦手なものも、
水はけが良い方が元気なものも、カラカラでも平気なものも。
水をやりすぎて根腐れという場合だって珍しくない。
枝ものの剪定などは、素人がやった日には目も当てられない。


というわけで、きちんとやろうと思えばどんな仕事でも
きりが無い。際限が無い。理想は高くなる。
手間が取られる、時間がかかる、労力を必要とする。
季節に応じた成長を見越した上での、植物管理・庭園管理。
いやもう、雑草との戦いが始まる春先から大変。


お客さんがよく通る出入り口は日向、東南に面し
日当たりがいい。(私達は通らないが)
この時期、沈丁花がきれいに咲くはずなのだが、
何故か今年は香りもしない、目立たない。
どうしたのかな、暖冬のせいかな?
いつもは香りが2階の廊下まで漂うくらいなのに。


? 近付いてみると全く葉色が無い。今にも枯れそう。
黄変化している、何故? 早すぎるよ。
これじゃ、香りも何もありゃしない。
暖冬のせい? じゃ、日陰の沈丁花はどうかな?
建物の裏に回り、ほんの僅かな西陽だけあたる場所へ。


? 今を盛りの白とピンクの沈丁花
今年は成績がいいこと。まあ、香りは今一つだが。
葉色もいい。丈も剪定で切りそろえられた形もまあまあ。
やや、こんもり丸い形がいいんだよね、かわいくて。
そこへ、係の一人の女性がやってきた。


「今年の日向の沈丁花、どうして枯れかかっているのかなあ。
 やっぱり、暖冬のせい?」
尋ねてみると、昨年までいた人が辞めてしまい、
今年度、新しく来た人が、雑草の処理が大変だと
夏の間に盛大に日向の花壇一帯に、除草剤をまいたとのこと。
あちゃー。


彼女が答えた。
「この子達は薬が嫌いだからすぐに弱ってしまって。
こっちの子は日陰だから、幸いなことに、
雑草が少ないので薬をまかれなかったのよ。」
何と皮肉なことだろう。誰も見ない庭の方だけ咲く沈丁花
辛くも命拾いした、日陰の沈丁花


植物の人生も楽じゃない。春を迎えて枯れかけるとは。
むろん雑草の人生も楽じゃない。忌み嫌われて、薬で処理される。
しかし、生まれてきたからには伸びよう、咲こう、
それが本能、それが生き方、それが当たり前。
太陽の恵みを受ける立場であれば、それは平等。


人生、後のものが先になり先のものが後になる。
よくあること。
昨日、ちょっとしたワタクシゴトの仕事の変化。
帰宅は真夜中1時過ぎ。充実しているとはいえ体にはきつい。
心の高揚感と疲労感は、時間をずらしてやってくる。


やりたいことをやっているのは幸せ。
やらなくてはならないことから逃げているのではない、
そう思いたいけれど、100%そうは言い切れない辛さ。
自分の思いを込めて、やれることとやれないことのギャップ。
充実感、徒労感、快い緊張感、やりきれない弛緩。


日陰の沈丁花よ、生き延びている花よ。
薫れ、今ひととき。生きていることを実感して、
たまさかの幸いに、薬害から免れて花開いた今。
日陰の沈丁花よ、君の人生は今日、逆転している。
君の知らない仲間の不幸の元に。


そう、人生はいつだってそう。
先のものは後になり、後のものは先になる。
沈丁花の香るこの季節、私はいつも受験を思い出す。
学生時代の受験の苦い思い出を、
香りで知らせるこのが花が嫌いだった。
あれから、嫌いになってしまっていたのだ。


でも、今日は、再び君を好きになろうか。
日陰の沈丁花よ。君は私に似ているから。
そう、人生はいつだってそう。
先のものは後になり、後のものは先になる。


沈丁花花言葉は「栄光・不滅」だって。
どう思う? 日陰の沈丁花よ。
・・・関係ないね、人間の作った言葉だから。
そう、君には関係ない。私が何を投影しようと。
君は君、私は私。