門脇先生、逝く
日本古代史の大家、門脇禎二先生、逝去。
朝刊で最もがっくり来た記事。
そんなにお歳でもないと思っていたのに。
私は大学時代上代・中古専攻だから文献上お世話になった先生の1人。
大阪府立弥生文化博物館の講演時には、その著書を持参して
サインしてもらった軽薄ミーハーな私ではあるが・・・。
やはりショック。
万葉集勉強(研究といえるシロモノではない)したので、
日本文学専攻とはいえ、何だか歴史研究のような勉強。
拙い卒論は、文学何だか歴史何だか訳わからない出来。
夢中になって色んな本が読めた時期、二十歳前後。
今は仕事上や趣味の読書。それは、実に乾いた読書だ。
既成概念や知識の無い頭で読んだ、学生時代の読書は、
識者から見れば思考回路ハチャメチャでも、
学ぶ本人はそれなりに刺激・感銘を受け、
幼いながらも「思索」「論考」を試み、
蜃気楼のような砂漠の楼閣、触れれば壊れるような自分の世界を、
どうにかこうにか目に見える文字にしようと、
あーでもない、こーでもないとすったもんだ。
- 作者: 門脇禎二
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その頃に読んだ本というのは、著者の講義を聞いているが如く、
文字が語りかけてくる、目の前に繰り広げられる世界に、
ただただ見入っているような、そんな状態。
読書の仕方にも、青春時代があるというべきか、
雑駁な知識のごった煮となってしまった現在、
純粋な目で読書を楽しむ、本の世界に入り込むには、
余りにも老いて、汚れてしまった自分。
社会人になってからの私がサインしてもらった本は、
実は門脇氏の初期の著作だったので
今頃こんな本を持ってくるかって感じで「?」な表情をされたけれど、
講演後、快くサインを頂いた本は、古代熱に浮かされていた
文学少女の成れの果ての私にとっては、青春時代の記念の一つ。
その本は、もう書店ではお目にかからないシロモノ。
大学の勉強や大学院での研鑽とは程遠い所で、
知的な会話、歴史を語るロマン、ちょっとした考察、
そういうものとは縁の無い世界で生きているけれど。
朝刊で見た先生の名前は、私の青春時代、私の読書体験、
学問というものを垣間見た頃の記憶を、
蘇らせてくれるものだった・・・。
朝から、何だかちょっと悲しい。
先達は当たり前のように飄々と先に逝く。
切り開いた道、見せてくれた夢、語ってくれたロマンを
虚空に放って、空の遠くへ。
・・・門脇先生、さようなら。
- 作者: 福永武彦
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