Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

出張先から

人事担当者は嘆く。労働のモチベーションが低い。
根気が無い。やる気が無い。次の就職先も決めずに辞める。
とにかく続かない。無断で欠勤する。
何を考えているのかわからない。
やりたいことがあるからと言うが、何をするつもりなのか。


仕事の内容を語り、業績を誇り、職場環境を説き、
人事担当者は語る。国内だけではなく、・・・にも、・・・にも
広く工場があるのに、活躍の場があるというのに・・・。
肝心の国内での採用状況が振るわない。
残業もしたがらない。景気は上向きで、季節に左右されず
仕事があるにも拘らず、3年と持たずに辞めて行ってしまうと。


工場の中は小さな異国。少なくとも私の目にはそう見えた。
日本人の姿は殆ど無い。日系人もいるのだろうが、
ごく僅かで、黙々と細かい作業をこなしているのは
異国の女性達だ。故郷の家族のために残業も辞さない、
いわゆる外国人労働者


一介の観光客ではなく、
ごく当たり前の隣人として仕事に励む人々。
しかし、私の職場の中からは見えない世界。
人事担当者の悩みは、採用のことばかりではなく
会社内の人間関係、職場内教育、言葉の問題、
配慮と営業方針の狭間で、担当者は大変。
人事担当者は呟く。せっかく職場に残った日本人は、
若い人でも鬱になってしまう。
どうしたらいいのか。

外国人労働者新時代 (ちくま新書)

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顔の見えない定住化―日系ブラジル人と国家・市場・移民ネットワーク

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次の会社であられもない格好で、言葉遣いも態度も
仕事中とは思えない新規採用者の話を聞く前に、
人事担当者の話を聞く。
いかに新任研修が大変か、仕事に慣れるまで、
使い物になるまでが大変か。
そりゃ、どの職場でも即戦力になるかどうか、
現場適応できるかどうかは、悩ましい。


若者達はごねる。こんなところやってられない。
ずっと座って仕事をするなんて。同い年が少なすぎる。
休憩が少なすぎる。残業が多すぎる。
あっという間に老けた。化粧する気力も無い。
仕事で疲れてALL(徹夜)で遊べない。
学生をしている仲間と話が合わない。
ガムを噛みながら、マシンガンのように文句を言う。


うん、それだけ話せるなら大丈夫だなあと思いながら、
苦笑せざるを得ない、日本人の若者と外国人労働者の違い。
自分のための時間が無いとわめく日本人。
家族への仕送り大事で、仕事があって幸せと呟く外国人。
この温度差の中で、先日の検診先での会話を思い出す。


健康管理部では、自宅研修権を奪われ、
専門職域を理解されず、締め付けが厳しくなり、
勤務評定でランク付けされ、給料格差の広がる
教職員の心の病の急増が嘆かれていた。
感情労働、肉体労働の激務である職務内容を理解されず、
横並びに「箱詰め」されるのでは、たまったもんではない。
ゆとり教育どころか、ゆとりのない貧しい教育。
時間も、質も、人手も、場所も、何もかも、
ゆとりから遠ざかっていく教育。


自ら考える力を育てると謳いながら、
自ら自由に研修することは認められない、職場環境。
対生徒、対同僚、対管理職、対保護者、対世間。
新任教師の感想は、授業以外の仕事が煩雑で多いこと。
当たり前である。雑用と肉体・感情労働の狭間、
専門教養を広げるべき時間もなく、校内を駆けずり回り、
タイムカードと、お仕着せの研修で束縛される。
おのずと学べるものには、限界がある。


不当な評価、不信に満ちた評価育成制度、
一方通行的で、下から上を評価することはできない。
学生が教師に感想やランクを付けるのが珍しくない時代に、
最も遅れている教育現場の、トップダウン
ボトムアップを潰して、どんぐりの背比べの拡大を目指すのが
教育の現場であれば、生徒は学校など見向きはしない。


人生に意気も覇気も夢も持てず、生活に追われ、
理想を忘れ、お上の覚えめでたきを競うなど笑止。
語り、伝え、お互いに影響を受け合う場は何処?
薫陶のくゆり漂わぬ世界に、何の心の安定があろう。
檻に入れられた動物に、自由を語ることはできぬ。
営利業績を闇雲に追及する企業倫理とはかけ離れた所に、
生徒の「成長」を「管理」の賜物と履き違える。
心貧しき社会。


人事担当者は嘆く。労働のモチベーションが低い。
教育現場は工場でもなく、均一の商品を作る場でもない。
一定水準の質は要求されるかもしれないが、
相手は水もの、生もの、将来どう化けるかはわからない。


人事担当者は嘆く。心を病む人が多い職場・職業だと。
病まぬ人間は健康で、病む人間が不健康だとでも。
何故、その逆はあり得ぬ? 
病む人間が正常で、病まぬ人間が過剰適応の異常だと。
弱き人間が病むのではなく、真っ当な人間から壊れるのだと。
汚染された空気の中で生きられない、カナリヤのように。


出張先で振られる話題に、私自身の心も痛む。

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