Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

凄い鋏

娘の音楽教室、水泳教室の補講の予約、
耳鼻科の診察、ドトールで一服、
駐車場ビルに新しく開店した整骨院の無料お試し、
その間娘は本屋で立読み。そんな夕方を過ごして、
やっとのことで帰宅。TVを見ながら遅おその夕食。
THE BEST HOUSE 123 で、面白い凄い鋏を見た。
http://wwwz.fujitv.co.jp/123/oa.html


第3位:伝統の技が生んだ奇跡の切れ味を持つハサミ
第2位:想像を超えたハイテク機能を持つハサミ
第1位:切れないことが絶対に許されないスゴいハサミ


それぞれ花の命を、髪の命を、人の命を長らえさせる鋏だ。
小さな町工場で一つ一つ手作りされる、職人技から生まれる、
或いは電流を通して熱を持たせて切ることで、切断面を維持する、
今まで不可能だった手術を可能にした、
名刀の誉れ・切れ味を有する、絶妙の鋏の数々。


このところ鋏といえば、紙切り鋏か台所用鋏ぐらいで、
かつて華道をたしなんだ頃の剪定鋏はどこへやら、
裁ち鋏に至っては、洋裁をしないのでご縁が無い。
馬鹿と鋏は使いようと言うが、実際はそれがわかるほど
鋏を使いこなす生活をしていないのが実情。


鋏は一つ間違えば凶器、そう、刃物。
それゆえに名刀村正の名を冠して作られている、医療用鋏、
「上山式マイクロ剃刀(せんとう)ムラマサスペシャル」
脳外科の世界で活躍する刃渡り11ミリ、先端の厚み1000分の6ミリ、
刀鍛冶の技は、ここに極まれりといった感がある。


鋏は一つ間違えば凶器。
昔読んだ漫画、一条ゆかりの「デザイナー」では、
ヒロインのデザイナーが、恋人が双子の弟とわかり、
自分で作ったウエディングドレスを切る夢叶わず、
裁ち鋏で自害。子供心にも、なかなか印象的なシーン。
恩田陸の初期のミステリー。鋏に纏わる謎解きも渋い「不安な童話」


鋏は一つ間違えば凶器。
それゆえに古人は「馬鹿と鋏は使いよう」と言った。
人を生かすも殺すも、それ相応の使い方があってこそ。
刃物も同じ。切れ味もまた、切れすぎて怖い時も。
人もまた愚直に一途であるが故に使えぬ時も、助かる時も。

デザイナー (集英社文庫(コミック版))

デザイナー (集英社文庫(コミック版))

不安な童話 (新潮文庫)

不安な童話 (新潮文庫)


鋏一つに込められた、様々なメタファー。
そういうものに思わず思いを馳せる。
断ち切りたいものがある。葬り去りたいものがある。
シュレッダーでバラバラにしても、安心できない心の断片。
もしかして、切れ味の良い鋏の様なものがあれば、
心も痛みを感じることなく、薄く切り裂けるものなのか。
切り離すことができるものなのか。


鋏、その優れものたちは、ものの命を繋ぐ。
花の、髪の、人の命の命脈を鮮やかに断ち、その後の姿に繋ぐ。
あらまほしき状態を具現するために振るわれる、刃。
2枚の刃物が交差するその向こうに、切り離され、断ち切られ、
新しい生を得るものがある不思議。


そう、交差する刃は新しい生をもたらす。
花に、髪に、人に、次なる生をもたらす。
鋏が鋏であるが所以。刃に抱かれ解き放たれることの意味。
交差する刃は、死と再生を一瞬で行う。
前後で、様相を転換し、空間を再構成し、立体化する。
心にも、そんな鋏が在って欲しい。
心専用の村正スペシャルが欲しい。


そう、交差する刃だからこそできる。
あの、麦畑で一枚刃の鎌を振り上げる御仁とは異なり、
黄泉路を刈り進む、凶器と狂気の一瞬は無い。
交わることで別れを、断つことで潔さを、
切り開くことで見えてくる新しい世界よ。


挟み挟まれる中で対峙するもの、
生かされることを願い、真っ当な生を望む愚直なもの、
その一途さを救ってやまない、素晴らしき鋏。
その切れ味ゆえに、決して敬して遠ざけられることが無いように願う。
鋏は使いよう。「切れる」「切る」という事は、
物の世界においても、心の世界においても、何と意味深なことよ。


さて、今宵、鋏を持つ女神は誰の糸を断ち切るか。

石、紙、鋏

石、紙、鋏