Festina Lente2

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愛機が壊れて

私はフィルムカメラ派だ。といっても、機械音痴なので、
取り扱いの簡単なものに愛着を抱いているに過ぎない。
しかし、その愛機がいつどこでぶつけたのか、角が割れた。
真っ黒で滑らかなボディが欠けてしまった。
いかにプレワインディング方式とはいえ、割れた場所が悪い。
フラッシュで感光してしまうかもしれない。
コンパクトカメラとして他に類のない超広角 f=24mm 、
F2.8という明るいレンズ、ツインシャッターというこだわりで
持ち続けてきたフィルムカメラ、果たして修理は可能か?


本町。こんな所で降りるのは20年ぶりぐらい?
このビル? あ、ここに修理受付の地図、別ビルだ。
ああ、ここは展示場所なだけか。関関同立写真部OB展。
熟年のおじ様方が歓談する、冷房の効いた豪華な展示ルームに
娘を残して、修理受付の場所へ向かう。


白い手袋をはめたおねーさんが、カメラを点検。
どうやら見積もりで、レンズに傷があれば
新しいのを買うのと同じくらい掛かりそうだ。
とにかく週明けにならないと見積もりはわからない。
それにしても、天下のブランド商品の修理受付が
こんなビルの3階の1室とは・・・ね。


仲人口なのか、お愛想なのか、マニュアルなのか、
フィルムカメラって、やっぱりいいですよねえ」と
微笑まれて、どうりアクションしたらいいかわからない。
デジカメの使えない、非常にお年寄扱いされた気分。
おいおい、こんな所で僻みっぽっくなってどうする?

気まぐれカメラBOOK (玄光社MOOK)

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時を超えるカメラ (エイ文庫 (097))

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フィルムカメラは少数派だ。現像できる店どころか、
フィルムそのものを置いている店も減ってきた。
36枚撮りが標準の私、海外旅行で感光した苦い思い出から、
プレワインディングのカメラばかりを持ち続けてきた。
被写体に恥じない望遠レンズや広角レンズを使いこなす、
体力のあるこだわり派ではないので、
パチリパチリと人気の無い景色を撮り、娘を撮って来た。


娘を撮り続けてみると、年のせいだろうか、
「人の顔っていいなあ」と思うようになって来た。
私が大好きなブログ『とりあえず俺と踊ろう』
イスラエルを旅する気分になる『地中海と砂漠のあいだ』
ここを眺めていると、写真を撮るその人自身が
いかに優しい温かみのある眼差しをもって
世界を眺めているか、はっとさせられる。


人を、ものを、食事を、町を、動物を、空を、
空気そのものまで、その人の感性に照らし出された景色は、
時に私の心を暖め、新鮮にしてくれる。
海外を旅する心地よさ、心もとなさ、
かつての町並み、忘れたはずの思い、
若かった頃の胸のときめき、思いっきりの深呼吸、
自分の手足や心が、どこまでも伸びていけるようなあの頃の、
私、私を感じさせてくれる、思い出させてくれる、
写真、写真たち。


閉じ込めるのではなく、そこにひそやかに息づかせる。
切り取るのではなく、そっと両手に抱くような、
はっとさせる鮮やかさ、そこに添えられる文章。
人を、人を好きにさせる、人を信じたり愛したりすることが、
泣きながら生きることが、恥ずかしいことでもなんでもなく、
当たり前に「人の顔」があるのだと、思わせてくれる。


どうして、人の顔を怖がってきたのだろうか。
どうして、人を見つめることができなかったのだろうか。
どうして、人を撮ることが人に触れるのと同じように
怖かったのだろうか、疎ましかったのだろうか。
勇気が必要だったのか、突き放して見ていたのか。
ものではなく、目鼻立ちのある、表情のあるものが
どうして苦手だったのだろうか・・・。

男子

男子

 

私を待つ娘のいる展示室に戻る。
様々な異境を旅し、シャッターチャンスにこだわった
大先輩たちの作品が、個性豊かに部屋を彩る。
「どの写真が好き?」娘に尋ねながら過ぎてゆく午後。
陽は西に傾き始めた頃、次の目的地に向かって旅立つ。
ペルシャへの旅。カメラは無いけれど。
地下鉄で2つ先の駅へ。


娘を撮ることで、人との距離がどんどん縮まってきた。
人と付き合うことで、人と暮らすことで、人の親になって、
やっと人並みに人との距離が短くなってきた。
そんな気がする今日。私の手元にはカメラが無い。

ターシャの庭

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