60代の訃報

いつかは行く道とは思っていても、
まだまだ自分にはご縁が無いと思っていたい。
娘はまだ8つ。高齢出産の身としては、先行き不安。
親も何とか生きていてくれているが、達者でという訳でもなく。
訃報は気になる。高齢者の訃報も気になるが、
60代の訃報は、特に身近に感じられるようになって来た。
というか、早過ぎる！と焦りと怒りにも似た感覚が押し寄せる。

そして、とある訃報欄を見た時に、こんなに若かったの？
自分の親の世代だと思っていたのに、こんなに若くして、
逝ってしまったの？　と思った60代の訃報二つ。
一人は名前を知らなくても、ああ、あの人と声を思い出す人。
一人は･･･、知らない人の方が多いかもしれない。
私より年配で漫画の好きな方は、絵を見れば思い出すかも。

お一人は、広川太一郎、享年68　こんなに若かったの？
あれから30年以上たったのに、古代守！
そう、私の世代には彼は古代守のイメージ。
家人ときたら、007（ロジャー・ムーア）なんだそう。
それからモンティ・パイソン。全くもう。
ある時はロバート・レッドフォード、マイケル・ホイ、
ムーミン谷のスノーク、でも私には古代守以外の誰でもない。

そして、もう一方は鈴原 研一郎、享年67　漫画家にして詩人。
1960年代に活躍した人だから、私は漫画を読み始めたひよっこ。
でも、その線の細いロマンチックな画風は今でも印象に残っている。
残念ながら、強烈にストーリーが焼きついているわけではない。
その涼しげな雰囲気のするペンネームが印象的だった。
儚げな雰囲気の絵柄と清純さ、切ない恋愛、
そういうイメージを与えてくれた男性漫画家。

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自分にとっては、遥か彼方の別世界の人。
声優も漫画家も自分にとっては、遠い世界の人。
なのに、自分の生活の中に静かに背景として溶け込んでいる人。
見たり聞いたり楽しんだＴＶアニメ、映画の吹替え、
ちょっと背伸びして読んだ少女雑誌の漫画、
それが自分の中に沁みこむように溶け込んでいる。
なのに、当たり前過ぎて意識できない。

鈴原研一郎は、子供心にシリアスな話を書く人だったと思う。
なぜかハッピーエンドのイメージがない。
派手な作風では無かったので、後から台頭してきた女性漫画家に
押し出されたような形で少女雑誌から姿を消したように思う。
少なくとも、高校時代には目にしなかったような気がする。
小中学生の自分にとって、物凄く年の離れた人だと思っていた。
なのに訃報を聞くと、自分の近くにいるような気がする。

そう、自分を心寂しくさせるのはこういう瞬間。
生まれてくる未来のベビーよりも、これから黄泉路を下る人の方が、
断然自分に近いと思う。そう感じる。
信長ではないが、人生50年は目の前だ。
平均寿命まで生きる保証はない。
広川氏は癌で、鈴原氏は心臓でお亡くなりになった。
統計上の死亡原因に含まれる、亡くなり方。

さよなら、『謎の円盤ＵＦＯ』のストレイカー司令官。
さよなら、『レモンの年頃』　
あなた方が20代の青春を駆け抜けて有名になっていく時、
それは私が生まれて小学生から中学生になっていく頃。
大人というものは、凄い凄い年上、雲の上の世界の人。
そんなふうに思っていたのに、訃報は自分の年齢を意識させる。

「大人」だなんて子どもを持ってみても、まだまだ至らぬままでと
上の世代を見上げていたのに、守ってもらっていたのに、
甘えているだけに過ぎなかったのだと思い知らされる。
のほほんと歳を取った私は、あっという間に折り返し地点を過ぎ、
健康で元気でいられる時間が磨り減っていく心身の疲れを、
輝くような木の芽や草花の息吹きにさえ、意識させられる有様。

私が60代に突入する日、娘はまだ成人前だ。
娘に癒され若いつもりで子育てしていても、訃報に愕然とする。
親の世代の訃報、自分に馴染みのある世界を支えてくれた人の訃報。
『宇宙戦艦ヤマト』は、遠い昔のアニメになってしまった。
私自身が娘の日常生活の背景でい続ける、背景足りる時間が
思いのほか限られているような、そんな気持ちにさせられて、
心許ない切ない気持ちを持て余す。

訃報、40代50代なら尚更、読みたくも知りたくもない訃報。
60代の訃報でも、堪える歳になって来た春。
職場でのことが、健康状態が、輪をかけてのしかかり、
寂しさを募らせる、春先。
異動の人事、退職、引越し、転勤、噂、憶測、
心寂しさをいや増しにさせる、春先の訃報。

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