Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

カッパドキアの花嫁

この暑い最中出勤すれば、余り見ない御仁が部屋にいる。
夏休みローテーションで、滅多に訪れない方が当番に来られた。
いつも別室で仕事をしておられる方なので、ちょっと敷居が高い。
しかし、いつも窮地か?と思われる時に、さすがは年の功で、
「・・・は実際・・・だから、・・・・しておいた方が」と、
それとなくフォローに入ってくれたりもする。


さて、取り留めなく雑談。今年の夏のご旅行はと尋ねてみた。
娘さんと夏は海外旅行をしていると伺った事があるからだ。
すると思いがけないお言葉。
「娘が8月の終わりに国際結婚するんで、海外旅行するよ。」
「ええ! おめでとうございます。どちらの国の方と。
カッパドキアなんだ・・・」と、元気ないお声。


カッパドキアは国じゃなくてと、突っ込みを入れる事も出来ない。
遥かなる外国(とつくに)、トルコの地に嫁がれる娘さんのことを思うと、
ある意味父親としては複雑な心境で、祝うよりも先に心乱れるのだろう。
娘さん2人の父親だから、初めて花嫁の父となるはず。
奥様はどのように思っておられるのだろう。
余りに遠い嫁ぎ先に関しては?


相手の方がどんな方かは根掘り葉掘り訊くことではないが、
父君となられる方は日本語に堪能、娘さんはトルコ語を猛勉中とのこと。
ふーむ。まあ、それは、なかなか、大変。
トルコは対日感情の良い国だし、食べ物も美味しい。
しかし、観光客として通り過ぎるのと結婚して暮らすのとは別。

親日の国トルコ 歴史の国トルコ

親日の国トルコ 歴史の国トルコ


お互いが愛し合っているならどうしようもないよ。
父親としては、娘が一番幸せになる方法に賛成するしかないし。
元から無鉄砲な子だとは思っていたけれど、
ここまで破天荒だと思ってはいなかった。
いつ結婚するかわからないで、海外にばかり行っているので、
静観と言うか、諦めていたんだが決まるとなると、急で。


え、寧夢さん、カッパドキアに行った事があるのか。
それはまた、・・・。そうか、ワインが美味しい所か。
食べ物のトルコは美味しいのか。
結婚式は夜から始まるらしい。一体どんな式なのか。
何が起こるのかさっぱりも見当が付かん。


そんな所も旅行しているのか。トルコには?
冬の寒い時に旅行している? 夏も2回?
え、3回も行っているのか。そんなに遺跡が多いのか。
イスタンブールには2泊するつもりだ。
有名な寺院があるから、そうか、ブルーモスクもいいのか。
それも行ってみるとしよう。
暑い時だから、体調に注意せねば・・・。


珍しく不安げにおしゃべりする先輩のお相手をしつつ、
花嫁の父となる方の心中を察するに余りある。
自分が母親で、一人娘が遥か異国に嫁いだら、さぞ寂しいだろうなあ。
耐えられるかしら。案外ケロリと諦めが付くものか?
娘の幸せ一番と割り切れるものか?
父と母ではどんなふうに違うものかな。


かつての上司は娘を嫁がせた後、寂しさの余りぼやいていた。
「耳掻きで貯めた金をスコップでほかした」と。
まあ、親として式のお金を出したらしい。
私は結婚そのものが遅かったから何もかも自分たちで仕切ったが、
トルコで式を挙げる2人はどうするものやら。


「なんで外国で暮らしてまで結婚したいのかな」
思案顔につぶやく先輩だが、自分が学生結婚で養子に入って、
大変だったと私に「ぶって」いたのを忘れてしまったのかな。
その時は何が何でも一緒にならねばと、自分の家なんぞ捨てて、
彼女を手に入れたのだと思い出話を語ったので、
普段話さない人に、いきなりそんな話を振られて、
わたくし、当惑した思い出がが。


「こんな結婚をするなんて、一体誰に似たものやら」
十分に父親の血を引いているのでは。
「母親が甘いから、こんなふうになったのか」
ええ? 奥様のせいになさいますか?
十分にロマンチストな御仁の血筋だと思うのですが。


与謝野晶子だって100首屏風書いて、お金作って、
夫を留学させて、後から追いかけて行ったでしょ。
我もコクリコ、君もコクリコですよ。愛情は」
「そうか、女は情熱的なんだな。」
「そうですよ、情熱的ですよ誰だって。愛があれば」


恋人のように、母のように、友達のように、同志のように、
愛は惜しみ無く注がれる。注いだからこそ、器から溢れて、
次のせせらぎとなって広がり流れていくのだから。
今は心の置き所無く、何か話してみたい気分の先輩。
ご自分の結婚話をされた時も、何かあったのでしょうか。


午前中から暑い暑い最中、熱い熱い話に、
やや当てられてしまい、それでも何故か忍び笑いしてしまう私。
ちなみに、中高生の頃、NHKの『未来への遺産』で憧れた、
カッパドキアに行った時、どれほど私が感動したか。
青空に突き抜ける奇岩の群れに、雪景色のパムッカレの美しさに陶然。
トルコの思い出が甦る。思い出し笑いをしてしまう私。


そして、父親の顔をして仕事に集中できない先輩に、
心の中でこっそりエールを送る。
行ってらっしゃい、カッパドキアの花嫁の父。
娘さんとの間でやり取りする、カメラ電話の顔じゃなく、
最高に幸せな笑顔をしっかり見て来てね!

アカンタス~中世イタリアのポピ

アカンタス~中世イタリアのポピ