Festina Lente2

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夏の節目の日

終戦記念日敗戦記念日。戦争が終わったとは単純には言えない。
その後の日本の状態を詳しく教えてもらったことはない。
つまり薄っぺらな記述として教科書の中にあっただけで、
実際にどんなことがあったか、細々両親から聞き伝え。
学校は積極的に教えることはなく、意識して学ぶこともなく、
世間で行事として終戦を振り返るという感じで通り過ぎていく、
この8月15日。いい年をした私でさえそうなのだから、
より若い世代が、毎年夏に巡り来るこの節目の日をどんなふうに
受け止めているのか、本音で聞いてみたい気がする。


不謹慎な振る舞いはどうかとは思うけれど、
親から黙祷するように言われたこともなく、
原爆について聞かされたこともなく、
もしかすると、口にするのも嫌だから思い出さないようにしているのか、
昔のことだから忘れてしまいたいのか、聞いた覚えが少ない。
戦争の思い出。


かぼちゃご飯ばかりで、白いご飯が恋しかった。
芋の入ったご飯なんか食べたくない。
勉強よりも畑ばかり作らされたと、いまだにぼやく。
ゲートルを巻いて軍事訓練、もう少しで戦争に行く所だったと
語る父は、いまだに混ぜご飯が好きではない。
なのに、時々作る「すいとん」。私の幼少時よく食べさせられた。


「将来は看護婦になります」と答えるのが当たり前。
男は級長になれても女はなれないから、副級長だった母。
無事に兵役から帰ってきた祖父の軍服を染め、縫い直して、
セーラー服に仕立てて、女学校へ片道7キロの道を歩いた。
教科書に墨を塗った少女は、図書室に読む本が無いので、
百科事典を最初からめくって読むのが楽しみだったと言う。


仙台に落ちる爆撃を、花火のように美しいと思ったという。
疎開してきた従姉と同い年で、何かと比べられ嫌な思いをしたと。
祖父が出兵中に、赤ん坊だった弟が亡くなった。
叔父は戦後生まれ。すぐ下の弟は農家の跡取り。
4人きょうだいの長女の母。女に学問なんかと言われながら、
爪に火を灯す節約生活だったとぼやく、2年間だけの大学寮生活。


父の長兄、伯父は軍人だったと聞くが、詳しい事は聞かずじまい。
達筆で恰幅のいい人だった。その下の伯父は戦争で、
伯母は乗っていた民間の船が沈められて亡くなったと聞いている。
母方の大叔父は戦前ブラジルへ渡ったまま消息を絶った。
遥か地球の裏には、血の繋がりのある人がいるのかもしれない。

傘の舞った日 (おはなしのピースウォーク)

傘の舞った日 (おはなしのピースウォーク)


それ以上のことを、私は娘に教えてやれない。
ほとんど詳しいことを教えてもらわず、聞き取ることもせず、
親戚と行き来することも無く関西で育った、宮城県人2世の私。
味付けは東北、コシヒカリよりササニシキが好き、
東北訛り、標準語、関西弁、徳島訛り。
私は娘に語るどんな思い出、節目、記念すべき事柄、料理の味、
伝えなければならないことを持っているだろうか。 


例えば今日のオリンピック、惜しくも銀メダルの女子柔道。
天晴れ、優勝金メダルの男子柔道。勝ち進んだ女子サッカー
様々なニュースが飛び込んでくる。
記録は歴史になり、人々が知るニュースから思い出にまで広がる。
でも、その家の歴史や個人の思いは口伝えに話さなければ、
直接聞くことが出来なければ、知ることが出来ない。
意識して、意図的に書いて残すのでなければ、
思い出話として残し伝えることもできやしない。


広島出身の知人は、言った。
原爆を受けた人は、喋らない。ひっそり隠れて暮らしている。
口をつぐんで語ろうとはしない。話すのは、ほんの一部の人。
それくらい、口に出して語るには辛い事なんよ、と。
戦争を経験した子ども時代の思い出を、青春時代の記憶を、
残して伝えようとすることは、強いエネルギー、気力を要する。


思い出したくないこと、楽しくないこと、辛かったこと。
忘れてしまいたいこと、今更言ってもどうにもならないこと、
だから言わない、伝えたところでどうなるものでもないと、
全面的に諦められ、捨て置かれたら・・・何も残らないのに。
祖父母と暮らした思い出が無い自分だから、
娘・孫には、何か話しておいて欲しいと両親に望んだりする。
それも難しいことなのだけれど。


終戦記念日敗戦記念日。お隣の国では不当な支配・圧政から逃れ、
独立を建国を記念する日だという。そういうことさえも、
学校では習わなかった。意識してニュースを聞かなければわからない。
戦争は、終わっている。でも終わっていない部分もある。
現実の戦闘が終わっていたとしても、目に見えない形で、
余韻は影響はずっと残る。残っている上で、この先どうするか。


中学校の時、社会の先生が言った。
「歴史は原因と結果の繰り返しです。結果が次の歴史のきっかけになり、
原因として働き、一つの原因が複数の結果を生み出す結果となり、
延々と続いていくのが歴史です。歴史を勉強する時は、そのある部分を、
抜き出して見るだけで、その前にあったものとその後に続くもの、
全てが歴史になっていくのです。」と言うようなことを。


家の中でも、社会でも同じ。
娘にはどんな歴史を、どんな節目を教え伝えていこうか。
自分には、どんな歴史が節目が存在しているか。
まずは常に考えておかなければなるまい。

扉を開けて (おはなしのピースウォーク)

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まぼろしの犬 (おはなしのピースウォーク)

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