Festina Lente2

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学問の場に厚化粧は要らない

Vendémiaire ヴァンデミエール(葡萄月)
高校生の時の世界史が蘇った、今朝。たわわに実る葡萄の房が
職場の部屋の粗末な応接テーブルの上に二房。
紫と赤紫の二色の宝石が輝く如く、鎮座まします。

                

部屋で最も年長のK氏が葡萄の主。
山梨にいる息子さんからの差し入れとか。
やっぱりねえ、こんな見事な葡萄、なかなかお目に掛かれない。
ありがたく数粒賞味させて頂く。
葡萄月深まりぬ。葡萄月過ぎゆきぬ。今日は長月のつごもり。
いきなり寒くなり秋も深まった感があるものの、
これからが秋本番のはず。

葡萄と言うと、私たち家族が何も知らず幸せだった最後の夏、
まだ埼玉に住んでいた頃、夏休みのぶどう狩りツアーで山梨まで行った。
富士山の裾野のお花畑散策も楽しめるというツアー。
保育園の娘よりも、生まれて初めての葡萄狩りにはしゃいでいたのは私の方。
葡萄棚に実る、翡翠の玉のような房、赤紫、紫、色とりどりの房、
丸からかなり横長な楕円まで、様々な葡萄があちこちに実っている。
デラウェア、種無し葡萄がご馳走だった私にとっては、
マスカット以上に出回っている昨今の豪華な葡萄は
(その贅沢さに気持ちも財布も)いたましくてなかなか自分では手が出せない。


その、手が出せない葡萄さま様が目の前に無造作に置かれている。
これを僥倖と言わずして何と言おう。大げさ?
本日、朝からフルーツを振舞われて幸せなスタート。
様々な内外の行事も一段落ついて、この秋の予定の目鼻立ちも付き始め、
ようよう心持ち穏やかになってきた月末、暑さも萎えて来ると、
気力体力の方が芽吹き始めるような、そんな気持ちにさえなる。
あいにくの雨模様の朝だけれど。

ブドウ (NHK趣味の園芸 よくわかる栽培12か月)

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ブドウの絵本 (そだててあそぼう)

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薄く粉を吹いたような淡い、真珠のベールをかぶったような葡萄。
いかにも薄化粧を施した食べ頃の美姫といった風情。
薄化粧と言えば、昨日の読売の夕刊に光の反射をコントロールする、
「パール剤」の話題が出ていた。自然な薄化粧の自然の恵みに対し、
人間の化粧品のパール剤は、元々は真珠に似た光沢を持つ魚の鱗の成分。
それから、雲母を原料としたものに変わり、今ではガラスなど平らで、
光を反射させる素材も使っているのだと言う。


果物の艶やかな輝きと違って、年々老化しているお肌にとって、
この手の話題は何となく気になるものだ。
肌の透明感、華やかな輝き、深みのある陰影。魅力的だが、
普段時間をかけてお手入れや化粧をしているわけではない。
ただ、顔色がよく見えるように、疲れて見えないように気を遣う。


最近は立体感のあるメーキャップを演出する、魔法の粉も出現。
ガラス素材を薄い酸化チタンで幾重にもコーティングしたもので、
角度によって反射する色が変わるパール剤が入っているのだとか。
これで、左右正面どちらから見ても立体感が出る唇へ。
ハイテクは美人を演出するのだ。


反対に皺やたるみを和らげるために、パール剤の表面に
硫酸バリウムを用いた「レフ板効果パウダー」もあるとか。
頬など平らで広い部分は赤みのある健康的な肌に、
皺の部分ではレフ板効果で凹凸を見えにくく、白くてふんわりと。
塗り方の難しいテクニックを駆使しなくても、若々しく元気に見えるなら
いうことなし。使って見たいものだと思う。


最も興味を抱いた記事は、セラピーメーキャップ。
最近ではメンタルケアメイクとか、リハビリメイクとか様々な言い方がある。
いずれにせよ、皮膚に何らかの障害がある場合、
それを化粧でカバーできるならば、生活のQOLを高めること間違いなし。
実際、白斑などの患者用化粧品にパール剤を混ぜて、
反射光や皮膚の透過光のバランスを調整するだけで、随分違うそうだ。

                              

アイシャドーや口紅、ファンデーション、様々な化粧品に使われているパール剤、
100種類以上もあって、何をどんなふうに使って化粧品に仕上げるかは、
各社の研究次第、職人技次第の世界だとか。配合の妙・・・。
艶やかな唇、目立たなくなる小皺、消えるテカリ。助かるねえ。
と、そんな事を考えていたら、葡萄の主が呟く。
「こんなの大学じゃない」・・・何の話? いきなり?


何かの特集でH大学にパウダールームが出来た話題を聞いたのだとか。
男子禁制のパウダールームが出来たので、女子学生来て下さいという、
宣伝も兼ねた大学紹介を見たのだと言う。
「こんなものにお金を掛けるくらいなら、大学ならもっと使い道があるだろう」
葡萄の主はおかんむりだ。同じ年頃の大学生の娘を持つ親としては、
学費が大学運営に適正に使用されていないと感じるのは、ごもっとも。
学び舎という言葉は耐えて久しく、駅弁大学が女子学生調達用、
パウダールーム化しているのではお話にならない。


女性が美しく装うのは悪いことではない。
欠点をカバーできるのは悪いことではない。
葡萄のように艶やかに瑞々しく真珠色の輝きに守られるのは、いいことだ。
でも、そこに入り浸って自己中な世界に没頭、本末転倒、
自分に磨きを掛ける意味を履き違えるのでは、お話にならない。
大学で自分を輝かせるのに必要なのは、パール剤ではないはず。
パウダールームや、学業である本業に関係ない施設・設備に躍起。
無駄な出費、不適切な設備投資、的外れな福利厚生がまかり通るなら、
そんな「厚化粧」の大学には、大学としての基礎体力は残っていないのだろう。


自然の美しさを纏う真珠の輝き、葡萄のように実りある学問の塔であれかし。
最高学府としての価値を、粉をまぶすことでうやむやにせず、
内実共にバランスの取れた学問の場として、あらまほしき大学。
葡萄から大学まで。
学問の場を貶める、そんなヴァンデミエールの反乱は要らない。

江戸美人の化粧術 (講談社選書メチエ)

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かづきれいこのリハビリメイク化粧学

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