Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

コロー展へ

初めて会うおじさんは、かーちゃんのお友達。
旧友で親友。同級生で同窓生。同じクラブ。
似たような仕事らしい。漫画が好きな太ったおじさん。
ばーちゃんが珍しく外出する気になったので、
かーちゃんは計画を立てた。場所の下見までした。
でも、とーちゃんの田舎のひいお婆ちゃんが亡くなった。
お外に出たがらないばーちゃんのお出かけの予定に、
かーちゃんは、初めて会うおじさんと4人でドライブすると言う。


どうやら、おじさんと初めて会うのはわたしだけらしい。
ばーちゃんはおじさんを知っている。
おじさんもばーちゃんを知っている。
30年ぶりだと笑っている。かーちゃんも笑っている。
わたしが生まれる前から、みんな知り合いらしい。
わたしがどうこう言っても始まらないフォーメーション。
不思議なドライブが始まった。不思議な遠出が。


かーちゃんは助手席でしゃべり続けている。
おじさんの車にはナビがあるので、道には迷わないらしい。
でも機械は少々お馬鹿で気が利かない。
いつもと違う遠回りの道だったり、何だか変な感じ。
そういえば、チャイルドシート無しで車に乗るのも変な感じ。


とーちゃんと来た時と違う道。
でも、かーちゃんが予約していたお店に着いた。
少々早く着き過ぎて時間が余った。
あわてんぼうのかーちゃんはカメラを忘れて、
使い捨てカメラを買いに行った。本当にもう、肝心な時に。
きっとかーちゃんは今日のことはブログには書けない。
写真も入れられない。デジカメが無いんだもの。
せっかくのお料理も写真に取れない。あーあ。


お子様ランチに、記念のお料理。前菜の器に丸ごと柿一つ。
ばーちゃんが手で割ってむしゃむしゃ食べた。
かーちゃんは食べてもいいのかどうか、お店の人に訊いていた。
おじさんは食べようとして、つるんと滑らせて下に落とした。
かーちゃんはスプーンでくるりと掬って、私にくれた。
それから栗ご飯を小さな釜で炊き、おこげまで食べた。
お肉も松茸と焼いた。ライチ味のシャーベットも食べた。


車で博物館へ着いた。おじさんは駐車場を探しに行った。
荷物をロッカーに預けていたら、すぐにおじさんがやって来た。
かーちゃんは、JAFでチケットを買うと安いんだよと教えていた。
大人用しかなかったけれど、音声ガイドを付けながら回った。
ばーちゃんは、わたしが一人で見て回るのを心配した。
わたしもばーちゃんが一人で立っているで、心配だった。
でも、一人で自由に見られる方が楽しい。


見終わった後、かーちゃんが「好きな葉書を買ってもいいよ」と言った。
いつもより少し多めに選んで買った。
モナリザのポーズをしている女の人が美人だった。
それからケーキセットでお茶。
大人はみんな抹茶ケーキ、わたしはシフォンケーキ。
ポットサービスのアールグレイはちょと多かった。
だから、途中でトイレに行きたくなって高速を降りて貰った。
かーちゃんは、ついでにと夕ご飯の足しになるものを買っていた。


かーちゃんが晩御飯を作っている間、おじさんと図書館へ行った。
予約の本を借りた。おじさんはその間、何か本を読んでいた。
おじさんを玄関からではなくて、勝手口から家に入れて、
かーちゃんに激怒された。お客さんは玄関からだと叱られた。
新しい圧力鍋を使ってクリームシチューができていた。
みんなで篤姫を見ながら食べた。何だかいつもと似た感じ。
とーちゃんはいないけれど。
とーちゃんは本通夜が終わったと電話をくれて、
おじさんと話していた。みんな、知り合いなんだね。

コロー 名画に隠れた謎を解く!

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ミレーとコロー (おはなし名画シリーズ)

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結局、旧友の今の状態を気にしながらも、好意に甘えた。
次に、いつ外出したいと言い出すかわからない。
通院以外、庭から出ない母のお出かけ所望。
もっとも、出かける直前、いつものように、
「行かない」「どこにも行かない」「あんたたちだけで行って」
と言い出したけれど、お迎えに旧友Kが来るよ、
お食事の場所も予約してあるよと声をかけると、
昨日のようにいそいそと洋服を選び出している。
不思議なものだ。
そう、昨日は何を着て行けばいいかなんていう言葉と共に
外出着を選んでいたことさえ、嘘のようだった。


娘にとっても、不思議な遠出。
生まれて初めて会う母親の友人とのドライブは、刺激的?
まあ、母親が家族、父親以外の男の人と話しているのを見るのは、
珍しくて当然。(職場では圧倒的に男の人が多いんだよ)
親戚付き合いも無いからねえ、この辺では。
かーちゃんはとーちゃんのいない休日の安全策を、
信頼のおける旧友に頼った。昔の母の記憶の中にある旧友を。
だから、タクシーやハイヤーなど使わずに。
自分で運転したらどうなるかわかったものではない。
初めての場所で事故った経験を持つ人間は、知らない道も怖い。


母が外出を望むのは、本当に珍しくなってしまった。
お金も扱わず、自転車にも乗らない。見当識もあやふやな事も。
なのに、気位は高いまま、より短気、決して謝ることも無い。
そして時々垣間見せる「昔の母」、日々優等生を装う子供に戻る。
その日その日の機嫌がわからない。
機嫌というよりも、何がわからないままでいるのか。


意外なほど、とてもよくわかっている時と、
忘れて思い出せないままでいる時と、
情け無いほどその行動を理解し難い時と常に交互。
ゆっくり下降線なのだと受け止めていたいけれど、
それもどこまで続くのか。まだら模様の母の日常。


「コロー展に行きたい」この発言さえも、昔の母の趣味・嗜好ではなく、
何かの失敗や隠し事の延長線上の「いい子の振り」ではないか。
そんなふうに考えるようになってきている自分が悲しい。
母の状態が今、「物凄く良く」なっているから、
せっかくのチャンス、この状態・時期を楽しみたいとは思えない。
結局自分の都合のいいように、私自身が気楽になれるように行動する母を
受け入れ易いだけではないかと考えてしまい、落ち込む。


明日は日帰りお葬式。家人の故郷に出向くのはプレッシャー。
その前に、今日は「母の希望」を叶えよう。
母の「覚え」めでたかった旧友に支えてもらって。
娘にも、面映いけれど学生時代からの友人を紹介。
・・・私は再体験したかった。それこそ学生時代に戻りたかった。
自分の母親と印象派の美術展、バルビゾン派の美術展など
見て回った昔の記憶を辿りたかったのだ。
もはや今更無理だとわかっていても、もしかしたらと、
もしかしたらお喋りらしい会話ができるかと、
ほんの少しどこかで期待していたのだ。


その期待が裏切られることもわかっていたから、
せめて昔の思い出を辿ることができるように、
旧友にすがったに過ぎない。そんな気がする。そんな気もする。
コローの絵の中に描かれている思い出、追憶のように、
銀灰色にけぶる木々の梢の下でくつろぐ人々のように、
森の中、止まった時間の中の心安らぐ景色。
私のコローの思い出を、今再び辿るために。

          


コローの絵では珍しい人物画。
それも、はっきりした目鼻立ちで描かれている「真珠の女」
彼女は何をそんなにもしっかり見据えて、
その眼差しをこちらに向けるのか。
私はやや受け入れ難い日常を、カモフラージュするように過ごす連休の一日。
奇跡のように遠出している母を、会話らしい会話もないまま、
やり取りを「取り繕う」だけになっている母を、
神戸の景色の中において、思い出作りをしている娘。


娘よ、かーちゃんが絵の話も、本の話もしなくなってしまったら、
仕事も旅行も料理もしなくなってしまったら、
どんなふうに思うだろう。何を感じるだろう。
それもそんなに遠い未来のことではないのかも、
なんて、母を見ていると弱気になる自分。
この手の仕事についている人間は、呆けるのが早いらしいから。
母に似ているならば、似たような仕事についている私もそう?


コロー展を心から楽しむことができないまま、
ただ、「みんなで家の外に出る」ことができた喜びだけを胸に帰宅。
春に寺社巡りドライブした時ほど、安心できなくなってきている今。
一緒に食事ができたり、外出できる状態が贅沢だと頭でわかっていながら、
私自身の受け止め方にも「ぶれ」が出て、辛いことが増えてきた。


旧友も、自分の母親が癌の再発までの悠々自適の時間、
色々楽しめて良かった。二人で旅行できて良かったと言っていた。
親孝行ができたよと言える彼が羨ましかった。
会話の通じる心の触れ合いのある親子関係が成立していたから。
そんなふうに、やっかんでしまう自分に落ち込む。
いや、観たいと言っていたコロー展に行けたのだから、
喜んでいるかもしれないけれど、上手く言えなくなっているのだ。
そんなふうにいい方に取れば、楽になれるとわかっていながら。
・・・できない私。


だから、こんなに気弱になってしまうかーちゃんは、
自分の娘に感謝する。付き合ってくれた娘に。
30年来の親友であり、旧友である人に感謝する。
甘えさせてくれたことに。助けてくれたことに。
今日一日、ばーちゃんと一緒にお出かけできたことを感謝する。
旧友と出かけることを許してくれたとーちゃんにも、ね。
お出かけしたいと言ってくれた、ばーちゃんにも、ね。

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