Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

お葬式へ

朝焼けの光の中を駅まで車を走らせる。
東の空を見て娘が声を上げる。
「おかあさん、夕焼けみたいに綺麗な空が見えるよ。」
そうだね、こんな時間に君が起きることは滅多にない。
だから、東の空の朝焼けを夕焼けと同じように感じているんだね。


車・駐車場・徒歩・電車・地下鉄・新幹線・電車・タクシー。
休日は割増料金なの? タクシーの余りの高さに驚く。
父方の祖父母と叔父叔母以外、娘にとっては初対面の人ばかり。
挨拶を済ませ、精進料理の朝兼昼食を頂く。
告別式は11時から。それまでに済ませる算段。
君は大人と同じ大きさの膳を頂き、辟易としている。


君の曾おばあさんは、棺の中。穏やかな顔で眠っている。
元々小柄な人だったのに、痩せて小さくなってしまった。
あと、2・3年頑張ったら1世紀を生き抜いた筈だったのに、残念。
でも、立派な大往生。夫にも息子夫婦にも先立たれたけれど。
娘たち、孫たち、そしてひ孫たち。
脈々と受け継がれていく貴女の遺伝子。
天国への階段のように見える二重螺旋構造導かれて、
大勢の親戚縁者が集まっている。


同じ宗派の筈なのに、地方によって異なる飾り付け。儀式の進行。
外孫の嫁、ひ孫の母、私は醒めた目で見守る。
娘よ、君は見ておくのだ。是非君に見せておきたい。
共に暮らすことなど1度も無く、乳幼児の時しか逢った事のない、
記憶に残っていなくても、人の死が、血の繋がりのある人の死が、
お葬式と呼ばれるものが、どんなものかを。

曹洞宗のお葬式 喪主のハンドブック

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よくわかる仏事の本 曹洞宗

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棺の顔の部分を開けて貰って、君に曾おばあちゃんの顔を見せた。
落ち窪んだ目、白い顔、君はどうして白い服を着ているのと尋ねる。
家人は仮通夜の時、納棺師がやって来てみんなを部屋に入れずに、
着替えさせたのだと話す。映画「おくりびと」のように、
衆人環視の元で死装束に改めることはなかったのだと。
されど、男の人みんなで持ち上げて棺に横たえたのだと言う。
「君は重いから、その時までにダイエットしておくようにね。
 みんなに持って貰えなかったら困るでしょ」と馬鹿な冗談を言う。
ふむ、私より長生きをする気でいるらしい、この御仁は。


受付にとーちゃんが座って仕事をしているのを、君は目を丸くして眺めている。
生前の元気な頃の写真が、入り口前の廊下には貼られている。
こういう葬儀場を初めて見た。受付はコンピューター入力だし。
名前を呼ばれ、順番に遺族席に。払子を持ったお坊様入場。
4人もいらっしゃるのか、鳴り物入りの読経。


花飾り、祭壇のしつらえ、羊羹の小箱、果物籠まで並ぶ。
そのうず高い飾り付けに、中央の棺は屠られる犠牲の食卓の様相。
お見送りをするというのは、こういうことだったのかと思わされる。
儀式というものは、食を共にする犠牲を払うという事なのか。
そんなふうに思わされる祭壇。


最後のお別れ。齢、70以上の娘達を先頭に末期の水を。
君は最初少し怖くて、嫌がった。
でも、みんなと同じように、葉っぱでお水を飲ませてあげたね。
それぞれが思い思いにお別れをする。母に祖母に曾祖母に。
遺品が見えなくなるほど花が投げ込まれ、果物が置かれ、
みんなで持ち上げた棺の蓋は、足元からそっと下ろされた。
ここでは釘を打たないらしい。


火葬場で待つ間、不思議なお茶の時間が始まる。
何故か男の人たち、女の人たち、別れて座ることになる席。
お菓子をつまみ、お茶を飲みながら過ごす2時間弱。
娘よ、君は何を思いながらこの場に座っていた?
お棺を見送り、再び見出した時の感慨。
人は灰となり小さな壺に納められていく。
君はとーちゃんと向かい合わせになって、二人のお箸でお骨を拾った。


再び戻り、1時間以上に及ぶ長い長い読経の場。
君は読み仮名がついているお経を、一生懸命声を合わせて読んでいた。
かーちゃんが驚くほどの集中力で、みんなと声を合わせて詠んでいた。
生まれて初めてお経を口ずさんでいた。
初七日を済ませてしまうので、一日が忙しい。
別室、朝のお部屋で精進落としのお膳を頂く。


人の世の営みとはよくしたもので、儀式の中に食べる場を設ける。
悲しくても寂しくても食べなくてはならない。残されたものは。
おくりびと」の中にあったように、人は食べて生きる。
生きているから食べる。動植物の命を貰って食べる。
悲しくても饗宴の場を共有することで、体を保たせる。
長い一日が終わる。


二人でやってきた道を、親子3人で帰る。
ハードな日帰り旅行。秋の日はつるべ落とし。
3連休は、あっという間に終わってしまった。
明日からは仕事と学校。それぞれの暮らしが始まる。
いつもと同じ日常生活が、始まる。
けじめをつけて、始まる。

「あの人らしかったね」といわれる 自分なりのお別れ<お葬式>

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モーツァルト:レクイエム

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なにも願わない手を合わせる

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