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ゴールド免許証なれど

年度末有給休暇を使い切るため、免許証の書き換えへ。
転勤・引き継ぎが無い人間は、やることさえやっておけばこんなもの。
さて、布団を干し掃除機を掛け洗濯物を干し、庭の菜っ葉を摘んで、
晩御飯の用意を半分して、図書館へ返す本を持ち、免許更新へ。
スーパーの駐車場に入れ、手続きを済まし買い物をして出る。
講習は13:30から。それまで昼食兼読書タイム。


何故かいつも更新の際に顔見知りと会う。
免許の更新の際、要眼鏡の私だがコンタクトを入れて写真を撮る。
今回忘れて眼鏡で来てしまった。一抹の不安。
予感的中。悪いことほど良く当たるんだよね。
免許証の写真は、係官が撮ってくれる。
よくぞここまで不細工に取れましたと思えるほど、天晴れな写真。
こんな無愛想で老けた顔でゴールド免許証。
5年間もこの顔で過ごすのかと思うと、泣けてくる。


無遅刻無違反、いや、無違反で来てご褒美のはずのゴールド免許証がこれか。
写真は嘘つかないと言うけれど、滅多にしない化粧のせいでもあるまいし。
全く見知らぬ人間がそこに写っている。
ああ、眼鏡をかけて写ればよかった。
こんなぼけた老けた首をかしげた写真で、シャッターを押した女性係官が憎い。
・・・というわけで、身分証明書代わりになる免許証を捨てたい気分。


そんな折、職場で盗んだ免許証でサラ金からお金を借り、
捕まった人のニュース。何それ? 人の免許証でそんなことできるの?
何のための証明写真なの? つまりは役に立っていないわけね。
あっても無くても構わない写真というわけ。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
そして、免許証そのものが大嫌いな訳には、もう一つ別の理由がある。


なんちゃって別姓結婚、軟弱別姓結婚といわれているもの。
つまり籍は入れたが、相手の名字を名乗らず旧姓のまま仕事をしているもの。
しかし、免許証は身分証明の代わりになるので書き変わっている。
これが甚だ嬉しくない。住所はともかく、何故本籍までいちいち記されているのか。
緊急に役立てるためなら、身体的特徴や血液型でも載せられる方がまし。
行ったことも住んだことも無い、見知らぬ馴染みの無い土地を
自分の本籍地にさせられるこの無念な気持ち。


娘にとってはルーツになるかもしれない。
しかし、自分にとっては違うのだ。何故、選ばせて貰えないのだろう。
何故、本籍地を免許証に記さねばならぬのだろう。
転勤族だから本籍地を動かさず、住所だけ移動。
自分を証明するものが根っこの無いものである、この不安定感。
自分が何一つ変えることなく生きてきた相方にはわかるまい。


自分だけが変わらず、生きていくと思っている人間が疎ましい。
ルーツも本籍も当たり前のように享受している人間が。
変わりたいとは思わない人間が変わらなくてはならない、
そんなシステムに従わなくてはならないのが、いや。
そんなふうに感じる人間は社会からはみだしてしまう。
「今のままでいいのに」は、世間を知らない青臭い考えだから。


嫁いでその家の人間になるという考えに、いまだに馴染めない。
自分の出自が一方的に消されることに納得できない。
併記されることも無く、選ぶことも出来ない。
もの扱いされる気分。
判子、印鑑と同じく、免許証の切り替えは私を落ち込ませる。
システムそのものも、年々老けていく顔も。


そう、自虐的な私は、結婚が決まった時から古い免許証を手元に置いている。
パンチさえ入れて貰えば手元に置けるから。
そして、年々老けて行く私の顔をたまに見つめる。
笑えることに、3年前と同じ服を着て更新に来ていた私。
免許証用の服? そんな一張羅でもないのに可笑しい。
その服を着て、ああ無情の写真。
せめて、もう少し穏やかな顔で写っていたかったのに。


3年前、家人退院後間もない頃、娘の小学校入学の頃、
何かと慌ただしい頃、忙しくて髪を短く切ってしまっていた頃。
あの頃と何が変わっただろう。仕事は? 家族は?
どうしてきちんと生活している実感よりも、
毎日が余裕の無い、追い詰められた気分になりがちなのだろう。
そんな気持ちが写真に全部出てしまったのだろうか。
ああ無情の写真。せっかく伸ばした髪を切ってしまいたい。
写真と同じ顔にならないように。


5年間。そして5年後。
私は仕事を続けているだろうか。
大台に乗ってしまう春。
幾つ年を重ねても、思っていたような「大人」になれない。
金銀真砂の砂から3分間に10個ほど、サファイアを見つけた気分。
その気分があっという間に消えてしまった、ああ無情の写真。
若くも、かわいくも写らない写真。
老けて、疲れた顔しか写っていない写真。


自分の顔に自信を持って生きろとか、
自分の顔は歴史だとか
自分の顔に責任を持てと言われてきたけれど、
この証明書写真が、一番自分の気持ちを気落ちさせる。
鏡の前とは別人の、人相書きのようなこの写真。
ああ無情の写真を憎む。
ゴールド免許証の写真なれど。

新聞報道と顔写真―写真のウソとマコト (中公新書)

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