Festina Lente2

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父の爆発

今日老父は疲れていたようだ。
滅多に疲れたと口に出す人ではないのだが・・・。
この時期、庭に出没するギャングを退治するのに忙しい。
それは筍! 人様にとっては有難いご馳走でも、
手入れをされずに放置された人様の土地から忍び寄るギャングは、
我が家の庭、つまり実家の庭を荒らすことになるとんでもない奴。
食べれば美味しいかもしれないが、そのままだと伸び放題、
葉を茂らせ、仲間を増やし、庭や床下が侵食されかねない。
筍を味わう以前に筍を退治しなければ、春はままならぬ季節。
それが実家を管理する老父の悩みの種でもある。


地下茎で伸びる筍は、この温暖化で勢い著しい怪物のような成長を見せ、
今年、とうとう舗装している道路脇まで延びて行っている。
あれはいったい誰がどう管理したものか。
土地の所有者はあれど、年老いて代替わりした人間たちは、
自宅周辺以外の見回りに来ないからだろう。
善意に基づく恩恵に預かるうちは筍料理も有難いが、
駆除となれば話は別。伐採するのは大変だから、
何事も小さいうちに摘み取れの作業に追われる。
どなたか筍が欲しい方!?


早朝、春は庭を見回り、外を犬と散歩し、筍を掘り、
新聞を取ってきて一服するのが父の日常。
本日、父は忙しかった。
母を歯医者に連れて行き、いつものように昼を自分で作って食べ、
仕事で遅くなる私の代わりに、夕方娘を矯正歯科へ。
(同じ場所だが、先生が違う)父は運転手さん代わり。
私が仕事から戻って来たら、かなりげんなり。

ふしぎなたけのこ

ふしぎなたけのこ


母の病気が余り宜しくない。芳しくない。
薬を代えるかどうか、決めなくてはならない。
自分のことがよくわかっていない母よりも、
父の方が「俺が代わりにしてやればいいだろう」で、
強気に世話をしてきたものの、母の骨折以来がっくり。
整形外科に連れて行くことができず、骨折を認めたがらなかったのは、
母よりも父だったようだ。精神的には。
あのすったもんだ以来、父はがっくり老け込んだ。


とうとう、初めて父が爆発。
「母さんは悪くなってきているんだ」
「お前は医者と何を話しているんだ」
「薬なんか飲んでも良くならない。ちっとも効いていない」
「俺に何かあったらどうするつもりだ」
「この家をどうするんだ」
「俺だって不安なんだ」
「みんな出て行け!」


医師に、主治医に母の状況を伝えたがらないのは父だ。
日々一緒に暮らしていて、どんなことがあるか、
母を傷つけるからと話さないように、他人に会わせないように、
閉じこもっている母を、ますます閉じこもらせているのは父だ。
自分が動けるからいいといって、その後のことを先送りにして、
相談に応じないのは父だ。
「ここは自分のうちだ」「自分のものだ」と頑張り、
「動ける人間がすればいいだろう」とやって来たものの、
限界が見えて心身ともに不安にならざるを得なくなってきた。


そう、ご飯の用意をしても、医者に連れて行っても、
家の掃除や洗濯をしても、私や娘がやることは、
二人にとってはほんの少しの助けにしかならず、
かえって気を使わせる結果となり、なかなか意思の疎通ができない。
私たち家族がいると落ち着いて生活ができない、
静かに暮らさせてくれというから、距離をとらざるを得ない。
相談するよりもされるよりも、放っておかれることを望み、
肝心なことは自分だけで処理しようとする。
そんな頑固な両親に、自分も似ている。


でも、不安なんだね。とうとう言ったね。
少々遅すぎる気もせんではないが、父さん。
もう頑張り過ぎなくてもいいんじゃないの?
自分が年をとっていくことだって十分不安で心配なことなのに、
母さんのことまで、私たちのことまで、何もかも。
指図しないでいるようでいて、みんな手の内に納めたい。
本当は○○家を継いでくれる人間が欲しかった。
手放すことしかできない娘で残念と、心のどこかで諦めながら、
距離をとって生きてきたでしょう。
お互いそういうもんだとここまで来てしまったでしょう。


春は気持ちの揺れる季節。
季節の変化という、周りの成長が早ければ早いほど、
自分の変化も気になる季節。
周りの成長がプラスに向けば、マイナス面が目立つ季節。
自然は周期を一巡りするけれど、人間は・・・と不安になる季節。
日差しが明るければ気持ちも軽くなるけれど、
その向こうにある影の暗さを意識する季節。
光の強いところほど影は濃く、
子供を見ればその先をどこまで見ることができるかどうか、
自分の年齢を意識する季節。


世間で話題になっているイチローの話も出ない。
世間の動きよりも、故郷の山火事の話題で里心が付いている。
そんな父を見ながら、自分も確実に年を重ねていることに気づく。
いい意味でばかりでなく、哀しい思いで切なくなりながら。
父の爆発をやるせなく受け止める今日。

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