Festina Lente2

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さよなら、マイケル・ジャクソン

娘と朝食を食べながら、NHKの朝のニュースを見ていた。
耳を疑った。マイケル・ジャクソンが自宅で倒れ、病院に運ばれ心肺蘇生。
息を吹き返さない。そう、亡くなったってことだね。
ああ、そうか、マイケル亡くなってしまったんだね。
おかしなことに、あんまりショックが無い。衝撃が無い。
と言うか、ついに来たかという感じがするのは何故?


職場に向かう車の中で、再びニュースが流れる。
職場でも話題になっている。
そう、あのマイケル・ジャクソンが亡くなったんだって。
そう、MTVの申し子だった彼が。
ネバーランドの主が。
大人になりきれない、いや、大人になりたくなかった彼。
とうとう、本当のネバーランドに旅立ったんだって。
やっと、やっと・・・。

同世代同い年のマイケル・ジャクソン。
あなたは遠い海の向こうの国の人だけれど、
ジャクソンファイブの時代を知っている。
『ベン』のテーマを歌っていた頃を知っている。
今から思えばあの映画は、あなたの世界、
あなたの心とリンクしていたのかもしれないね。
そして、忘れもしない、マイケル・ジャクソンその人として、
快進撃を続けていた時代が始まる。


そう、ビートがはじけて花火のように音楽が踊った。
ダンスが音楽と渾然一体となって画面いっぱいに広がった。
笑顔とメロディがステップを踏んで、くるりと回って世界を一周。
「私を月まで連れて行って」ではない。
あなたは、既に月の上を歩いていた。
そう、その時から既にあなたは地球から離れて行ったのかも知れない。

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多くの人が感じているだろう。ほっとしているかもしれない。
あの痛々しいマイケルを見続けることがなくなったので。
全盛期のきらきら輝くようなマイケルの歌とダンスを知っている人間には、
様々なスキャンダル、浪費、プライベート、病気、手術などなど、
有り余る才能の御釣りとして付いてきた不幸、諸々にうんざりしていたはず。
そういうものに囚われて、在りもしない国の住人になる事を固執していた、
大人になるのを、歳をとり老いる事を嫌悪しなければならなかった、
彼の孤独の深さを感じ取っていたはず。


だから、私は悲しまない。
もう、彼は逝ってしまった。
残された人間は、彼の音楽とダンスを純粋に楽しむことができる。
MTVの申し子、時代の申し子、映像と音楽が自ら抱きしめたスーパースターは、
本当に映像の中でしか生きられない存在だった。
繰り返し再生される彼のMTV、宝物を封じ込め世界。
そしてもう、彼を辛い現実の中に引き戻さなくても済む。
その安堵感で、一杯。


そう、みんな若かったね。みんな若かった。
戦争も終わって、(内戦はくすぶっていたけれど、)
冷戦も終結、一応の解決を見て、問題は山積だけれど、
世の中は手を携えれば、よくなると信じていた。
みんなが前向きに何かを信じようとしていた。
あの、80年代から90年代にかけて、ゆるやかな下降線の時代。
登っているように見えて、実は下っていた人生。


誰もが若いままではいられないから、それぞれの生活、
それぞれの重荷を背負って、それぞれの顔に皺やシミを刻んだ。
軽やかなステップを踏みながら、いつまでも奇声を上げて、
自分のテンションを高め続けて、笑顔で一生過ごすことなんて出来ない。
理想や願望を織り込んだ繭の中で、脆い体を休めることなく、
次の蛹に成長させ、羽化する前に破裂してしまったような、そんな人生。
辛かったでしょう。人よりも多くの喜び哀しみ、
はかり知ることのできない富と、その虚しさ。
誰にも経験することの出来ない、人生。


その天空の高みを目指して、その地獄の闇を覗き込んで、
飛ばなくてもいい、もう跳ばなくてもいい。
翔ばなくてもいい、もう、自分を無理やり駆り立ててまで。
名前の通り、大天使ミカエルの翼の下でゆっくり休んで。
深く呼吸が出来るように、マスクも無く覆いも無く、
素顔でゆっくり息ができる、約束の地で静かに寛いで過ごして。
さよなら、マイケル・ジャクソン


Good-bye, Michael Jackson.
Good old Michel,
So long Michel.

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