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オペラ座の怪人

既に日本語の題名、邦訳よりも英語のままで通じるようになった。
The Phantom of the Opera オペラ座の怪人
本日のBS洋画劇場。火曜日のJesus Christ Superstarに続いて、
musical night again というわけ。
こんな不良かーちゃんの元で育つ娘の運命や、如何に。


実は私達の好きな漫画家、川原泉の代表作に、
笑う大天使(ミカエル)』という映画化までされた作品があるのだが、
その番外編に主人公達それぞれのエピソードがあって、
読むと笑えて、おまけにしみじみ泣けてしまうその作品の中に、
オペラ歌手が登場する作品がある。彼とテディベアの強い繋がり、
ファンタジックなコメディタッチ、最後はシリアスという流れ。
その作品にテディベアが「オペラ座の怪熊(かいじん?)」と表現
された箇所があって、娘のお気に入りだった。


その結果、本来の The Phantom of the Operaに興味を持つように。
かーちゃんがロンドンで見た最後のミュージカル、The Phantom of the Opera
ヒロインは今をときめくサラ・ブライトンだった。
今日の放送はその舞台を映画化したものだが、
作曲者アンドリュー・ロイド・ウェーバーが陣頭指揮。
映像も音楽担当者からのお墨付きとあって、仕上がりも上々。
ファンの心をがっちりとつかんだ。


劇団四季の舞台も見てはいるが、作品をロンドンで見たときの感動には遥か及ばず。
娘のおねだりもあったが、とうとう大阪での舞台には連れて行かなかった。
まだストーリーもちゃんとわかっていないし、
余り背伸びさせてもという気持ちもどこかにあった。
その代わり、先に映画を見せておいた方がいいかなという気持ちもあって、
不良かーちゃんと夜更かし娘はTVに向かった。


報われない悲恋の物語と取るか、恋人達のラブストーリーと見るか、
夜にも不思議なオペラ座の伝説と受け取るか。
オークション場面の白黒画像から回想シーン、華やかに色づく画面、
その変化に娘はかなり戸惑った様子。
そして展開する物語に、次ぎどうなるの? どうなるの?
この人死んじゃうの? あの人死んじゃうの? と矢継ぎ早に訊いてくる。
そんなのかーちゃんから聞いたら、見る楽しみが半減するでしょ。

オペラ座の怪人 通常版 [DVD]

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娘には「音楽の天使」の正体はどう映ったかな?
二人の男性から愛されるヒロインはどんな風に見えたかな?
舞台演出もすごかったけれど、地下の舟旅の様子は?
仮面を被ったファントムの姿は?
オペラ座の舞台裏の様子は?
娘の目にはどんな風に映ったのだろうか、この作品は。


次に何が起こるのか、ドキドキするよー、心臓に悪いよーと
きゃあきゃあ騒いでいるのがかわいい。
何が起こるかわからないから楽しめる。初回だけの楽しみ。
かーちゃんにとって初めてのロンドンの舞台が忘れられないように、
君にとってはこの映画が初めてになってしまうかな。


でも日本語で歌われる四季の舞台を見ても、音楽の素晴らしさが半減するし、
かーちゃんとしては、やっぱりその歌の響きはオリジナルで聴いて欲しい。
根本的に、日本語の詩の韻の踏み方とは違うのだし・・・。
あれこれかーちゃんは悩みつつ、期待してしまうけれど、
何をどのように見て受け止めていくかは、娘の人生だしなあ。


改めて映画を見ていると、『源氏物語』ではないけれど、
親を失ったヒロインを幼少時から自分好みに教育し育ててきたのに、
「幼なじみ」というだけで、横からさらわれてしまったファントムに同情。
その幼なじみがヒロインに気がついたのは、ファントムに鍛えられた音楽性、
類稀な美しい歌声だったというのに。


源氏物語』の源氏が紫の上の姿を誰にも見られないように、
実の息子の夕霧さえも近づけなかったという用心深さ、念の入れようは、
自分自身が父親の妻、義母を寝取ったという前科があるからだが、
自分自身への賞賛を代理で受け取るはずのヒロインが、
歌よりも舞台よりも、家庭に入り人生を共にする相手を選び、
怪人の手の届かぬ場所へ、心理的にも物理的にも遠い場所へ行くことへ、
恨みつらみを募らせて、「かわいさ余って憎さ百倍」になるのも、
うべなるかな、納得できる展開ではある。


顔のハンデは相手と「互角に戦う」気力をそぐには十分。
オペラ座の怪人は、音楽・文学・建築に優れた舞台芸術家。
そういうことになっているけれど、表に出て行ける立場と、
陰に隠れて生きる闇とでは、戦う前から勝負は付いている。
どちらを選ぶかヒロインに詰め寄るのは、
負けるのを承知で戦いを挑むようなものだ。


しかし、そんなふうに言ってのけては物語は始まらない。
ヒロインの薄幸で可憐さ美しさを、オペラ座という舞台を取り巻く猥雑な世界を、
巨大な闇を心に持つオペラ座の怪人を、
ドラマティックな展開を、メロディと映像を楽しむ事が出来ない。
想い出を散りばめて、現在と過去を行き来する世界を。


それにしても不思議。小さかった娘が、かーちゃんと一緒に
オペラ座の怪人』が見たいという。
自分の子どもの頃では考えられない。
せいぜい親と見に行ったのは怪獣映画・アニメの類だった。
TVで楽しめるのも、その再放送だけだったのに。
この年齢でミュージカル? 遠い記憶の中にあるのは、
その頃話題になっていた『ヘアー』の中の数曲だけ。
その音楽をどこかで耳にして、教会の日曜学校に通っていたことから、
中学生でJesus Christ Superstar、それがまさか、何十年もたって
The Phantom of the Opera 娘と一緒に見られるようになるとは。


そんなことを考えながら、時間が過ぎる。
TV映画の中で時間が何十年も過ぎて、クリスティーヌの墓。
舞台には無い映画の場面。オークションで手に入れた猿ののオルゴール、
ひっそりと捧げられた深紅のバラ。
何年何十年経っても変わらぬ思い。
かーちゃんの胸の中で通り過ぎていく時間。
娘の上を流れている、わずか10年に満たない時間。


複雑な気持ちで音楽を聞く。映像を見る。
一緒に過ごす空間。共に聞く音楽、見る画面。
共に過ごす時間。娘よ。娘よ。
一緒に過ごせる時間はそれほど長くないだろうけれど、
それでも、こうしていられる時間は、夜は楽しいね。
musical night again and again. 

ヘアー

ヘアー