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『ウェルかめ』を聞きながら

今日からNHKの新しい朝の連続テレビ小説『ウェルかめ』が始まっている。
残念ながら、一度も観ていないが半分ぐらい内容は知っている。
いつも通勤時のラジオで丁度半分ぐらい聞けるから。
テーマ曲とあと少し。
帰宅が早ければBSでの再放送で見れるのだろうけれど。
娘が言うには「亀がかわいいんだよ」とのこと。
いまだ見ぬオープニングに興味津々。


さて、舞台は徳島美波町というが、そんなところ私は知らない。
徳島にいた期間はさほど長くなかったが、そんな地名は無かった。
そう、平成の大合併という訳の分からない政策の中で、
行政上の地名「美波町」は生まれた。
だが、昔ながらの由緒ある地名ではない。
元々は「日和佐」「由岐」。
海がめの町として有名なのは「日和佐」だったはず。


私は合併に関して政治的な口を挟める立場に無いから、
愚痴をこぼすに過ぎないのだけれど、単に住所から「字(あざ)」を消して、
郵便番号も変わらないならば、別に無理に新しい地名にしなくても。
というか、合併してどれほどのメリットがあるのかわからないけれど、
かえって不利益をもろに被っている所も、全国各地にあるやと聞く。
それとも秤にかけてみれば、メリットの方が大きいのだろうか。
得するものがいれば、損するものがいるのは世の習い。


でも、個人的な思い出からすると、馴染んだ地名が消えると、
思い出までが消去されたような気がする。
きっと、私のように県人でなくても、
何かしらの感慨を拭い取られたような、
そんな割り切れない思いにとらわれる人はいるはずだ。
その地で生まれ育ったならば、新しい地名に馴染めず、
ルーツが消えてしまったような、故郷の様変わりに戸惑う人だって。

ウェルかめ―連続テレビ小説 (NHKドラマ・ガイド)

ウェルかめ―連続テレビ小説 (NHKドラマ・ガイド)

NHK連続テレビ小説 ウェルかめ〈上〉

NHK連続テレビ小説 ウェルかめ〈上〉



お上の都合もあるだろうが、地名が消えていくのは哀しい。
引越し、転勤先で新しい住所を確かめ、地図を買い求め、広げ、
(インターネットなんて無かった時代は、そうやって周囲を確かめるのは当たり前)
最寄り駅、バス停、幹線道路、学校や郵便局、市役所、目立つ建物、
買い物できる場所、車や自転車、徒歩でいける範囲を確かめる過程、
その地域に馴染むまでの、探検・冒険・彷徨にも似た期間の楽しさ、
心もとなさと同時に少しずつ新しい世界が広がっていくような楽しさ、
そういうものがこの歳になっても忘れられない。


若い頃の海外旅行もそうだったが、ガイドブックで確かめるだけと
その地に住み根を下ろす人々や、質実剛健な旅人から非難されようと、
個人でもパックでも地図を見ながら確かめながら、
どうにかこうにか行きたい場所に少しずつ足を伸ばす。
その楽しさは、スリリングで忘れられない。
切符一つ買うにもすったもんだしたり、遠回りはしたけれど。


そういうわけで、せっせと自分の足で稼いだ土地の土地勘は残れど、
名称変更、新しいバイパス、新興住宅地、しばらくぶりに訪れてみると、
全くとって澄ましたしたり顔のそっけなさ、他人行儀な町になってしまったような、
名称変更、名前だけでそういう先入観を持ってしまう私は、単純な人間。
乳飲み子を抱いて子育てにいそしんだ思い出とあいまって、
徳島の町々、津々浦々は思い出の中に輝かしい。


それが、郡が消え、市になり、町名も変更。
職場にいる徳島県人も、何もかも分からなくなったので、
里帰りすると居心地が悪いとぼやく。
その割に「僕の名西(みょうざい)郡はそのままやで」と自慢げ。
そう、周囲が変わっても自分の土地が変わっていないことが勲章のよう。
その気持ち、県人ではないけれど分かる。


NHKが悪いんじゃないけれど、平成の大合併のお先を担いで、
新しい地名を全国的に広めたい美波町、もとい日和佐の願望をバックに、
行政上の尻拭いをしながら全国ネット放送をしているような、
そんな錯覚を持ってしまう底意地の悪さ。
景色を見たく無いのは、知っている景色が映って懐かしさよりも、
がっかりしたくないからかもしれない。


サーファーが集まる海岸の景色も、一緒に入浴した宍喰の道の駅の温泉も、
蛍を観に行った夜の道も、みんなみんな、徳島の県南はよそよそしく地名が変わった。
それだけで一方的に別れを告げられたような気分にもなり、
しばらく住んだだけで、少々執着しすぎる人間をなじられている気分にもなり、
この夏久しぶりに訪れれば、以前よりも寂れた風情にショックを受け、
何が平成の大合併だったのか、不況のせいなのか、何のせいなのか、
活気を失って見えた町々に、哀しい思いがして・・・。


そう、ドラマの主人公が悪いんじゃない。
懐かしい訛りを聞きにいく、そのドラマの時間、
徳島時間に浸りたい思いを、主人公の名前がいちいち逆撫でする。
新しい地名に馴染めないまま、ヒロインの名前をすんなり受け入れることは出来ない。
別物だと頭で分かっていても、感情が受け入れられない。
この矛盾した気持ち、どう言えばいいのか。


「かめ」は私のトレードマーク。
「亀」は私も大好き。でも、故郷の浜が開発されてしまい、
砂浜が無くなって、産卵したくても出来なくなってしまった、
故郷に帰ってきたくても帰れない、そんな亀のような思い。
私って大げさ・・・。


家人と来たら、会社から帰ってから録画で見ているとか。
やれやれ、どんだけあなたも「徳島」に思い入れがあるのよ。
「うちんく」の諸々にこだわりがあるのか。
「讃岐男に阿波女」のこだわりよろしく、役柄も相応に、
ドラマはどんどん展開していくのだろうけれど、
徳島のどこがどんなふうに取り上げられるのか、
観たいような聞きたいような、見たくないような聞きたくないような。


というわけで、「故郷の訛りなつかし、そを聞きにいく」の
石川啄木の心境の如く、カーラジオに耳を澄ませている今日。
TVの時代に、ドラマを耳から楽しんでいる私。
昔の地名に脳内変換しながら聞いている私。
今日は長月のつごもり。

生まれる地名、消える地名―「平成の大合併」で日本地図に大異変!

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