Festina Lente2

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お着替えの場所

昨日、いつもの時間に娘をプールにお迎えに行くと、
いつもいるはずの場所にいなかった。
あれ? あ、そういえばプールの時間は変更になったっけ。
待てよ、じゃ、まだお着替え中かな。
久しぶりにプール横の脱衣所に行くと、あれ?
やっぱり娘の姿は無い。レッスンは終わっているはずなのに。
もしかすると・・・、ああ、やっぱり更衣室で着替えていた。


そういえば、お着替え等という言葉が似つかわしくないほど、
娘は大きくなってしまった。10歳にしてはからだが大き目。
「お着替えしましょうね」そんなふうにいつも言葉を掛けて、
オムツや肌着、洋服の類を、合わせから肩ボタン、被り物、
ボタン、オーバーオールからジャンパースカートやズボン、
様々な種類の洋服に着替えるようになって、どれくらい?
全く親の手を煩わせることなく自分で着替えるようになって、どれくらい?


思えば、子供の体温、柔らかい感触、子供らしい匂い、
ある時は天然の巻き毛だった髪も、今は普通のストレートになってしまったが、
フワフワした髪をとかしつけ、ふにゃふにゃする体に洋服を着せ、
お臍を隠すズボン、腹巻付きのパジャマからいつの間にか、
普通のパジャマを着るようになっていったのはいつ?
今までどれくらい色んなパジャマを着せただろう。


更衣室から出てくる娘を、小さな子供たちが行き交う脱衣所で待ちながら、
水着を着たのは何時だったか思い出す。あれは、ベビースイミング
まだ8ヶ月頃。むろんマタニティスイミングをしていたから、
きっとお腹の中でも泳いでいたに違いない、我が娘。
初めてのプールは、もちろんビニールプール。
家の中、たらいの行水の時は、1歳にもならない裸んぼさん。
初めての海は、阿南に中林の保育所があった頃。
みんなでスイカを食べた、あの時はどんな水着だった?


スイミングスクールの水着、プライベートの時の水着、
頂き物や御下がり、買い揃えたもの、結構数を着たね。
水泳帽、むろん普通の帽子、ベビー用の丸いかわいいもの、
耳が付いたもの、麦藁帽子、子馬に齧られた時があったっけ。
おじいちゃんが買ってくれたもの、頂き物、随分沢山被った。
日焼けももちろん、帽子を被るようにしつけて育てたので、
今でも登下校はもちろん、普段でも帽子が好きな娘。


お着替え・・・。頭の先から足の先まで。
大人の手の大きさにとても届かない、小さな手足の頃。
爪で顔を引っかかないよう頂いたベビー手袋。
片方だけ落っことさないようにひもで繋がった手袋、
お人形さんに履かせる様なかわいい小さな靴下。
手縫いでも作れる小さな下着、タイツやスパッツ、Tシャツ、
思い出せない程沢山の御洋服が走馬灯のように浮かでは消え・・・。

考える衣服

考える衣服



沢山洋服があるのに、結局いつも同じ服、お気に入りの洋服、
着易いもの、肌に馴染むものばかり着ていて、
親の好みや思惑とは違うファッションになってしまうこともしばしば。
自分で選んだ組み合わせが、ちぐはぐな時も、しっくりくる時も、
色んな場合はあれど、自分で選んだ服を自分で好きに着るのが当たり前。
時にはかーちゃんが選んでTPOを意識する時はあるけれど、
え? お気に入りでももう小さくなってお臍が出そうだよという服を、
平気で着て行ったりする通学風景に、ひやひやすることもあるのだけれど、
娘よ、もう「お着替え」なんて言葉、似つかわしくなくなったね。


かーちゃんは、プールにお迎えに来てびっくりした。
そういえば、保育園のころから始めて水泳も、最初は手に汗握り、
プールにかぶり付いて君たちが泳ぐ姿を見つめていたものだが、
次第にコーチに任せっきりで、終業後にお迎えに来るようになり、
どんなふうに君が泳いでいるのか、最近しばらく見ていない。
かーちゃんが泳げない種目も泳げるようになった君は、
タイムを気にしながら伸び悩む、いっぱしの水泳少女。


保育園から小学校低学年のように、小さい子どもたちと一緒に、
脱衣所で素っ裸になりさっと着替えて、髪を乾かし、
そんな当たり前のような景色を想定していたら、
君はいない。その場にいない。着替えていなかった。
君は、一人前のレディのお年頃に指しかかり、
奥の女性用の更衣室を使ってお着替えをしていた。


そう、人目を気にしてレディとしてのたしなみを意識するようになった。
君はそんな年齢になったんだね。自分の体の事を意識する、
装いの際の人目を気にして振舞う事ができるようになってきたんだね。
それはそうだ。もう10歳なのだもの。思春期の入り口。
蕾が膨らむように、君は花開く未来に向かって成長し続ける。
双葉や若芽の時期を過ぎ、蕾を持つ年頃となれば、
それ相応の恥じらいも感じる年になったんだね。
かーちゃんのそばで服を着替えて、当たり前に過ごしていた、
子供子供した時期は、とっくに終わっていたんだね。


お着替えの場所は、子供の場所、子供でいられる場所から、
大人としての、人前・人の目をを意識する年齢にふさわしい、
そんな場所を必要とするところに変化していたんだね。
かーちゃんがぼんやりしていた、そんな大事な事を、
何時のもの待ち合わせの場所で、のんびり本を読んで寛いでいる、
そんな君の姿だけ見て、何も考えていなかった。
もう、着替え終わった後の君しか見ていなかった。


君が、初めて奥の更衣室に場所を取った日は何時だったのだろう。
どんな気持ちで、大人ばかりが使う部屋に、(むろん大きいお姉さん、
小学校中高学年の子達もいるのだろうけれど)
自分の場所を陣取ったのだろう。
そう、10歳になったらとーちゃんと一緒に男湯に入れない、
君は去年からずっと気にしていたものね。


お父さんと一緒に御風呂、そろそろそんな年齢では無いと
みんなで分かっていながら、プールの更衣室の事を、
すっかり忘れていたかーちゃん。
そういえば、この1、2年、一緒に泳いでいないもの。
保育園の時までは、どれほど一緒に泳いだことか。
草加温水プールの時代、ベビースイミングの時代。
君はどんどんかーちゃんから離れて、自分で着替える、
自分だけで着替える年齢になっていた。


お着替えの場所。着替えるということ。
それは、するりとかーちゃんの手をすり抜けていった、
昨日までの君を、今日探して追いかけているかーちゃんが、
もう忘れてしまっていた、場所。
もう、意識しなくなっていたこと。
着替えるということ。着替えるための場所。

衣服の歴史図鑑 (「知」のビジュアル百科)

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性とスーツ―現代衣服が形づくられるまで

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