Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

父の入院2日目

仕事中、いや、特に今は現場に出かけるたびに、
昔好きだった映画の中の台詞のように、自分に声を掛ける。
It's show time! そうやって時間が過ぎていく。
切れ切れに目の前に浮かぶ映像を、どうにかこうにか押し込めて、
不安、けれども父は病院にいるのだから安心と言い聞かせて、
普通の日常生活を送る。娘のためにも、自分のためにも。
そして母のためにも、父のためにも。


けれども、病院にいくまで運転をしていると、
おさらいをしているように、昨日の出来事が蘇ってくる。
だからといって、以前のようにショックの余り道がわからなくなる、
なんていうことは無い。それくらい今回のことは、
以前の経験がクッションになって、自分をシャキンとさせている。
切れ切れに記憶が、自分の中で渦を巻いても、
それは自分自身が記憶しておきたいから。
自分が忘れたくないから。
何度でも再生される、テープを巻き戻すように。


夜中2時。父の容態がおかしい。
ベッドからずり落ちていて、異臭がする。
呼びかけても返事がない。うめき声? いびきはない。
顔面蒼白。とりあえず救急車を呼ばなくては。
間違えた。110番してしまった。119・・・。
何分で到着してくれるだろう。

ERの裏技 極上救急のレシピ集

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ERの哲人―救急研修マニュアル

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? 電話を終えて父の寝室に戻るとベッドから完全に落ちている、
いや、座りなおそうとしている? 意識が戻って? え?
真っ赤なマーライオン。吐血。映画やテレビよりも遥かに大量。
何か言おうとするたびに、自分の口をふさごうとしているのか、
血を受けようとしているのか、
レバー状の塊も一緒に次々に吐き出されてくる。
咳き込みはない。
まるで胃から食物を吐瀉するように大量の血塊が吐き出されてくる。


2:38 家人に連絡。搬送先がなかなか見るからない。
優に5分以上は時間がたっている。救急車に母を乗せ、私は車で付いていく。
3時前、病院到着。医師、看護師、事務員が待ち受ける救急の搬入口。
挨拶をして中へ入ると、すぐに家族用の別室に案内される。
母を一人にできない。待つことに。待つ時間が長い。
幸い暖かく柔らかな色彩の小部屋、係りの人の対応も丁寧。


廊下に出て連絡。救急担当の医師の説明を受ける。
大量の吐血と下血で貧血状態。
輸血の必要性の説明、及び承諾書類にサイン。
血液検査と血液の到着まで全開で点滴で繋ぐ状態。
胸・肺のレントゲン結果は良好。おそらく胃内部、消化器官の出血。
胃カメラは朝を待って検査。詳しいことはその後でないとわからない。
吐き気止めを点滴と一緒に静注。


夜中の記憶が、昼間の記憶よりも鮮烈だったせいか、
フラッシュバックするように蘇ってくる。
しかし、医師の立場からすれば、複雑骨折でもなし、
手術の必要な状態でもなく、脳梗塞でもくも膜下でもなく、
緊急の心臓カテーテルが必要なわけでもない。
出た分を補給する、出血を血止めする、その単純とも言える
ルーティンの処置で経過観察ができて、予後良好な症例は、
家族に取り立ててどうこう伝えるべきことが無いはず。


自分にそう言い聞かせて、主治医の説明を聞く。
入院して丸一日半、やはり再度輸血が必要だったよう。
これで合計1200mlか。それでも普通の人の半分のヘモ。
絶飲食で不平顔を見せる父がかわいい。
ぽつぽつと声を出せるようになっている。よしよし。
胃カメラ2度目。胃内部の動脈は完全に塞がりきっていなかったよう。
再度血管を焼いて血止め。これで大丈夫でしょうとのこと。


かなり太い血管だから、出血したときは噴水みたいに血が出たでしょうねと
こともなげに主治医が話す。今では内視鏡で様々な処置ができるけれど、
昔だったら胃内部で出血となれば、血圧が下がって血が自然に止まるまで、
放って置くしかなかったはずで、そのまま貧血・ショック、衰弱して、
おさらばということになってしまっただろうに。
ありがたいことに、簡単な処置で様子を見てそのまま大丈夫だとのこと。


見通しとしては来週までこのまま、調子が良ければ少しずつ経口食に。
ああ、そういえば救急の先生が言っていたっけ。
ここの消化器内科は結構早いうちからご飯を食べさせているって。
確かにそうだなあ・・・。その方がまあ、患者も喜ぶし体力も付くし。
私の様に憩室炎で痛い苦しい食べられない、熱は出るではなく、
輸血と輸液で回復した父は、いつもとは打って変わっておとなしく、
タバコも酒も飲まずに過ごす優等生として横になっている。


目に焼き付けて帰るのならば、この姿。もう大丈夫。
ちゃんとおとなしく、先生と看護師さんの言うことを聞いて、
ゆっくり養生してね。いい子で横になっていてね。
二日続けて見舞いに来た家人に恐縮しながらも、
正月の酒は遠慮するように主治医に言われて渋い顔。
やれやれ、喉元過ぎれば何とやら。
カラ元気なのか、何なのか。


父の入院二日目。
やはり、一緒に帰宅してくれる人がいるのは心強い。
母と娘が待っている。
仕事はてんこ盛り。期日が迫っている。
頑張らなくては・・・。
巻き戻したいのは自分の時間。
自分のための時間。
そう思いながら、みなの寝静まった後、仕事を続ける夜。

バロックの旅~私を泣かせてください

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Aqua~水‐生と死の間に流れるもの~

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