Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

チャペル・コンサート

父の入院後、母はまだ一度も見舞いに行っていない。
とにもかくにも引きこもりがちの母が、庭から外へは難しい。
というか、まだら呆けが始まってから自分の体調に自信が持てず、
どんどん外出嫌いになってしまった。ただでさえ内気な母。
70前までは自転車にも乗れて買い物していたのに・・・。
それでもどういう風の吹き回しか、よほど気分がよかったのか、
チャペルコンサートに誘ってみたら、行ってもいいとの返事。
気が変わらないうちに出かけなければ。


紅葉の始まったキャンパスの駐車場横手、
緩やかな坂道を上がり、かわいい大学チャペルが見えてくる。
ああ、この秋の澄んだ空気の中をここへ来るのは久しぶりだ。
それも母と二人きりで来たのは、本当に久しぶり。
ぎりぎり間に合ったので席はなかなか見つからない。
大学の50周年記念チャペルコンサートとあって、大盛況。


本日の演奏者。ヴァイオリンは景山誠治。ピアノは向山かおる。
プログラムは知らない曲のほうが圧倒的に多い。
作曲者は知っていても、ヴァイオリンの曲はあんまり知らない。
ルクレール:ヴァイオリンソナタ ニ長調作品9-3 「タンブラン」
ベートーベン:ヴァイオリンソナタ第5番 ヘ長調作品24「春」
休憩 辺りを見回す。平均年齢の高いこと。
チャペルコンサートのせい? 


ヴィニアフスキ:オベルタス ト長調 作品19-1
ドボルザーククライスラー編:ユーモレスク
クライスラークープランの様式によるルイ13世の歌とパヴァーヌ
サンサーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
アンコールはタイスの瞑想曲


弱音器ミュートを付けた演奏を目の当たりに聞く。
(付けた時と付けない時の引き比べでよくわかった)
原調変ト長調ユーモレスク。(一般はト長調
弾きにくいけれど、音の響きが全然違うのだそう。
売れない作曲家時代に威厳と格式を持たせて楽譜を売ったから、
クープランを引き合いに出しているものの、おそらくは、
クライスラーのオリジナル曲のはずの作品。
華やかな奇想曲、静かなアンコール。


パイプオルガンが備え付けられた教会のチャペルに響く、
ヴァイオリンとピアノの音色は、音響効果の良さもあって抜群の響き。
どちらかというと、控えめで誠実な音を奏でる演奏家だ。
浮ついたヒステリックなこれ見よがしな音を奏でるのではなく、
伝統を重んじた落ち着いた音色と、技巧的な指使いのバランスが、
丁寧で穏やかな音の空間を創り上げている。

クライスラー:ヴァイオリン名曲集

クライスラー:ヴァイオリン名曲集

クライスラー:愛奏曲集

クライスラー:愛奏曲集



かつてはヴァイオリンをたしなんだ家人に解説頂きたいものだが、
今頃は娘とBKプラザで「ウェルかめ」デート、
楽しく盛り上がっているはず。
それにしても、老父も予定していたチャペルコンサート
入院中で聞くこと叶わず、さぞ残念だろう。
母とこんなふうに二人で外出、本当に久しぶり。
というか、よくぞ外出する気持ちになってくれたものだ。
穏やかな時間が過ぎて、母のご機嫌麗しいうちに
父の病院に見舞いついでに、母のメガネも新調することに。


実はどこぞに置き忘れたり壊してしまったりして、
・・・それが病気の特徴だが、眼鏡を失くしてしまった母。
引きこもりがちで眼鏡屋に行くのも、
外出そのものも嫌がっていたのに、
今日はどういう風の吹き回しか、積極的。
白内障のレンズが入っている方はよく見えているようだが、
片方の視力が今一つなのが、視力検査風景から見て取れた。


おまけに、完ぺき主義の負けず嫌いはますます頑固で、
「間違いたくないので小さい字は読めません」って・・・。
読めないのは間違ってくれよ・・・素直に。
読める範囲と読めない範囲をはっきりさせたいのに。
だから家でも同じように行動する。
できないわからないのを隠して誤魔化して、
すり合わせ取り繕いで、「事件」に発展させてしまう母。
そのすったもんだが日常生活になっている我が家。


眼鏡屋のお兄さんのアドバイス
「転倒が怖いからレンズはプラスチックで、ガラスは避けましょう」
ということに。フレームはお勧めのものを幾つか選んでもらい、
母に鏡でで確かめてもらった。眺めている姿がかわいい。
従来掛けていたタイプと似た大人しめの金縁のもの、
顔立ちが少しはっきりくっきりする若々しいワインレッド。
予備眼鏡として私が管理できるよう、二つ作って貰った。
このお店は、お付き合い長い、信頼する眼鏡士さんのいるお店。
家から少し遠いのが難だけれど。


さて、向かいの建物、父の病院へ。? いない。
トイレに立てるようになったから? どこに? 
しばらく待てど戻らない。5分も待てない母。
看護師さんは「もうすぐ夕食だから」と慰めてくれるものの、
どこへ行ったものやら、とうとう病院の中でも鉄砲玉。
いつもと変わらない父になってしまったのか。
トイレにも売店にも談話室にも見当たらない。


母は機嫌を悪くして、「もう帰る」を連発。仕方ない。
今日外出できただけでも、おまけに眼鏡を作ったのも、
普段では考えられない行幸。だから疲れたよね。
急いで帰宅と相成った。何しろ19時にはベッドに入る母。
夜は電話にて娘や家人の土産話で寛ぎ、
ジーちゃんは話し相手でも見つけたか、売店にでも行ったか。
どこぞですれ違ってしまったのだろう。
そんな老父の入院10日目。

ヴァイオリン名曲集ア・ラ・カルト

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