Festina Lente2

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TVの中の正倉院と唐招提寺

世間では文化の日だが、こちらは文化的なことには縁遠く、
家事で1日明け暮れた。炊事・洗濯・掃除、その合間に休憩。
何故なら何処にも出かけられないけれど、いいTV番組があったから。
一つは午前中『正倉院2009 宝庫のすべて』9:58〜10:53(朝日放送
これは単に正倉院の宝物について解説するのではなくて、
正倉院という古代の倉庫の内部について、
そして今私たちが古代の宝物を目の前にすることができる背景、
明治維新以後、正倉院御物保存の為に私財を投げ打って奔走した
先見の明と気骨ある人物、町田久成について。


恥ずかしい話だが、町田久成という人物を私は知らなかった。
町田が大久保利通のバックアップを得て正倉院公開のために生涯を掛けて
検討していたのにもかかわらず、大久保暗殺後、理解ある支援者を失い、
不遇のうちにも機会を窺い、その世界的価値を知らしめんと尽力した男。
そういう薩摩藩士が、維新前後に大英博物館を見学、
今でいう文科省で御物を世に広く博覧せしむるを夢見る。
そのお陰で、古都奈良の風物詩、正倉院展は今開催されている。


当時は限られた身分のある人しか見る事叶わぬ御物。
修復されず分類も定かならぬ状態で、何とか守り伝えられてきた御物。
1000年の時を経て白日の下に晒され、あっという間に傷んでしまった御物、
シルクロードの終着点といわれる奈良の正倉院にどのような宝物が眠っているか、
彼、町田久成の力が無ければ展示も公開も、あまつさえ保存の為の建物も、
奈良の地に国立博物館が建つ事も無かったに違いない。
度重なる不遇にもめげず、生涯の仕事として自宅まで売った際に、
まさか勝海舟が間に入って買い上げられていたとは。
咸臨丸、幕府直参旗本、江戸城無血開城、昨年の『篤姫』、
密かに尊敬する勝海舟だが、まさか正倉院公開に関わっていたとは。
それにしても、戦前の日本の繁栄を築いたのは江戸時代の人、
戦後の日本を築いたのは明治の人、というのは頷ける。


彼らの時代を越えた意気盛んなる志・教育・理想・信念。
それらが、日本を作り上げてきたといっても過言ではない。
なのにその後に続く私たち昭和の世代、戦後の世代は何を残せるのか。
何を創り上げ、語り継ぎ、申し送ることができるのか。
はなはだ父祖に顔向けできぬ、心苦しいことのみ多き平成の世。
その平成も20年が過ぎてしまった。
天皇陛下20周年を記念する正倉院展に、今年はまだ足を運べていない。

博物館の誕生―町田久成と東京帝室博物館 (岩波新書)

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日本博物館成立史―博覧会から博物館へ

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娘と家人は自転車の修理に出かけた。
それからじーちゃんのお見舞いに行って貰った。
我が家の犬は老犬、阪神大震災と同じ年齢。
老父が入院して回復してくるのとは反対に、がっくり体調を壊した。
生きていても今年一杯と獣医に言われ、家族全員大切にしているのだが、
食欲はあるものの、歩くのも億劫、目も白内障で濁り、すっかりおばあさん。
そんな犬の食事や、畑の野菜、家の内外を片付けて日が暮れる。


夕食後、見応えのあるTV。10年ぶりに扉が開き、
落慶法要が行われた唐招提寺の開祖、鑑真和上が。
その天平の時代及び、奈良時代の女帝と内乱、歴史の中に人間ドラマ、
なかなか見応えのある番組、「TBSの「JNN50周年記念 歴史大河スペクタクル 
唐招提寺1200年の謎 天平を駆けぬけた男と女たち」。
民放のCMの多さ、内容の下らなさに普段からうんざりしている私だが、
この番組はかなり力を入れて作ったと見えて、(皇室の歴史にも関わるからか?)
なかなか見応えのある出来栄えだった。


しかし、歴史マニアの私とは異なり、娘や家人は退屈。
百人一首のカルタをしようよーとうるさい。
全くもう。1日動いたかーちゃんにゆっくりTVを見せてよ。
昨年、一昨年と正倉院展を見たのに、人が多いから今年は行かないというし。
天皇陛下在位20周年の記念すべき年だよ。せっかくの御物に逢いたくないの?
かーちゃんは不機嫌になりつつ、カルタのお相手。


鑑真の名前を知ったのは、小学校3年生。
クラスの学級読書コーナーにあった『天平の甍』だ。
小2年生の時、図書室の偉人伝を読み漁って感動した『勝海舟』。
そう、鑑真の話は偉人伝であって歴史物語だった。
昔の人が、昔の人のしたことが今に繋がる、
それが歴史。今も残る歴史。


正倉院唐招提寺シルクロードのロマン。鎮護国家の仏教。
実態は宗教的絡みの権力闘争。いつの世も歴史は生臭くおどろおどろしい。
それでもたった一人の心、意思、信念が大きな流れを作る。
奈良は、歴史は、そこここに寺社や遺跡で私たちを招く。
日常生活のホンの向こうに、手が届きそうな所に
未来からの呼び声のように、過去からも呼び声。
こだまする思い。


正倉院はタイムカプセル。唐招提寺は七転び八起き、
野越え山越え海越えて、初志貫徹のイメージ。
正倉院展に初めて行った時は20代だった。
唐招提寺は元気だった母と二人で行った。
どうやら今年は一人で行くことになりそうだ。
そんなことを考えながら、11月3日は終わる。
平成21年の文化の日

天平の甍 (新潮文庫)

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おん目の雫ぬぐはばや―鑑真和上新伝 (図説 中国文化百華)

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