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森繁久彌逝く

森繁久彌亡くなる。都市部では号外が配られたという。
有名な俳優だ。勿論、名前は知っている。
しかし、私が物心付いて芸能人の名前を覚え始めた頃には、
既に今の私の年。子供の目からは老人以外の何物でもなく、
彼の活躍した最盛期は過ぎていたのではなかろうか。
盟友だったかもしれないが、残念ながら緒方拳ほど印象に残らず、
日本版『屋根の上のヴァイオリン弾き』の主人公ティビエ役の人、
そんな印象しか残っていない。


ラジオ大好き人間の家人からすると、『日曜名作座』の人なんだそう。
うちの両親であれば、もっと感慨深く森繁久彌の思い出があるだろうが、
残念ながら母はそういう話ができる状態でもなく・・・。
老父は大阪出身とは知らなかったと、今更ながらのように、
新聞やニュースを通じてあれこれ思っているよう。


皮肉なものだ。活躍した人だというのに、具体的に思い出せない。
私にとっては、向田邦子の思い出は強くあるのに、
向田邦子を脚本家に下きっかけを作ったという、彼のことがわからない。
ぴんと来ない。お髭の俳優さんね、そんな感じ。
祖父の世代の人だから尚更そう感じるのかもしれないが、
世間で大騒ぎしていても、胸に応えるニュースとして感じられない、
そのこと事態に驚きもし、また虚しくなるような感じもした。


平均年齢が40半ばの職場であれば、どういうわけか一月の間に
4、5人ほどの同僚の親の訃報が相次ぎ、そういう年齢の私たちと思っても、
身に積まされガックリ来ても、森繁久彌の死に対する周囲の反応には付いて行けない、
やや距離を置いて見守るしかない、そんな感じの私。
心波立つインパクトよりも、上の世代が消えていく諦めに似た寂しさだけが、
何となく漂っている。そんな感じ。


去る者は日々に疎しと言うけれど、本当にそう。
この間までTVで見る事が多かった円楽師匠の死には、
もっと痛ましさを感じた。寂しさを強く感じた。
でも、主な活躍は過去の話となり、
ラジオの日曜名作座も再放送で、現在は隠居・引退同様。
元はコメディアンだったと言われても、ピンと来ない。


物事や人々の間に温度差があるように、彼の死に関しては、
世間の反応との間に温度差がある私だが、
私より若い人は、どんなふうに受け止めているのだろう。
森繁久彌知床旅情を懐かしがっている人々。
でも、私には加藤登紀子の方が知床旅情のイメージ。
どうしてもモリシゲではない。


世代差、年齢差、温度差。
世間の「落胆熱気」について行けない、
そんな感じ。
でも、心からご冥福を。
祖父の世代の名優、20世紀から21世紀まで、
ほぼ1世紀を生き抜いた名優、森繁久彌
安らかに。