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アライグマも絶滅危惧種も

朝のニュース。正倉院がアライグマの被害に。
京都・奈良の古寺・名刹があちらこちらでアライグマに齧られ、
引っかかれ、国宝級の建築物も形無しだという。
やれやれ、なんで日本にアライグマ?
そもそも、日本に居ないはずでは? 
何ですと? 現在300匹ほどうろうろしているとな?
何がどうしてそんなに繁殖しているわけ?


私の頭の中のアライグマは「ラスカル」という名前で、
昔のアニメからインプットされた知識に依存、
かわいくて北米やカナダに生息というイメージが殆ど。
それまさか近畿のお寺をあちこち荒らしているとは。
なるほど、映像を見ると長い爪を引っ掛けて、
国宝や重文の柱にするするとよじ登っている。

世界名作劇場・完結版 あらいぐまラスカル [DVD]

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異国の地に無理やり連れて来られたご先祖様達。
種の保存の法則に従って、産めよ増やせよ地に満てよ。
アライグマの本能に基づいた生活に罪は無い。
責められるべきは、日本に何故アライグマがいるかという、
その元を作った人々。かわいいからとペットにして、
その後飼えなくなったからと、野山に放してしまった人々。


川魚がブラックバスに駆逐されて、琵琶湖は壊滅状態、
当然琵琶湖を水源とする川も悲惨な状態、
水草から魚まで天敵を持たない外来種はのさばり放題とは聞いていたが、
アライグマよ、お前もか。
マングースも蛇どころか、その辺の小動物を食い散らし、
ハブ退治に役に立たないと非難されていたっけ。
何がうれしゅうてアライグマなんぞ、動物園以外に輸入?

ぜったいに飼ってはいけないアライグマ

ぜったいに飼ってはいけないアライグマ

ハクビシン・アライグマ―おもしろ生態とかしこい防ぎ方

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悪化は良貨を駆逐する。これは人間の世界の経済の話。
動物の存在そのものは、本来の生息地内においては、
自然の法則、弱肉強食、食物連鎖でバランスが取れているはず。
それをひたすら壊し続けているのが、人間。
人間の存在は地球の癌だと言われる所以。
やれやれ、奈良時代から先人が守り続けてきた文化遺産は、
今や異国の動物の爪痕だらけ。


文化庁は「こんなにひどいとは思ってはいなかった」コメント。
外来種の様々な動植物が、明治維新以後日本にはびこり、
検疫もなんのその、国際交流ならぬ無勝手流、
魑魅魍魎が跋扈するに等しい自然界の混乱を来たした。
地球温暖化が輪を掛けて、ありえない環境変化、
棲み分けや種の維持のバランスの崩壊、
想像だにされていなかった動植物の繁殖繁茂、
この責任を誰が?


現在お江戸ブームが続いていて、古地図片手に江戸探訪、
私も時々見ているNHKの「ブラタモリ」なる番組が話題。
かつての人気番組「お江戸でござる」と、軽妙洒脱な解説で人気だった、
江戸研究家兼漫画家、そして名エッセイストだった杉浦日向子が、
今も健在であればと偲ばれる。
その上(かみ)の江戸時代、よくもまあ、鎖国をしたものよ。

杉浦日向子の江戸塾 (PHP文庫)

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一日江戸人 (新潮文庫)

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幕末から維新にかけて近代日本の革命期とも言える時期、
疾風怒濤のエネルギーもさることながら、
世界史に類を見ない太平の世を、200年以上も保った事実を
もっと世界に誇るべき。何しろ、自給自足の先進的リサイクル社会、
お江戸100万の人口を有し、文盲の少ない国民、
今世紀の世界各国と比較しても自慢できる識字率を維持した文化、
寺子屋制度に藩校、浮世絵に歌舞伎、和歌に俳句。
庶民の文化程度の高さ。質の高さ。
士農工商身分制度を背景に持つ武家社会に
何も欠点が無かったとは言わない。しかし、少なくとも疫病も、
無差別無分別な動植物の輸入は為されていなかったわけで、
日本の自然、固有種を守ったという点では、評価されてもいいだろう。


それから100年を過ぎて、天下泰平の世どころか、
国内外でも戦争が続き、富国強兵策にとうに挫折。
基礎科学も教育にも国力を傾けて人材を育てる様子も無く、
ゴミ溜めに塵芥(ちりあくた)を掃き寄せるが如くの、仕分け作業。
京都議定書なんぞ気にも掛けぬ国々の意向を伺い、開国した挙句、
国際社会の仲間入りをして自由貿易に徹すれば、国土は荒れ放題、
人材は新天地を求めて流出、在来固有の動植物は舶来渡来の外来種に、
「お株を奪われ」絶滅の危機に瀕するもの数多(あまた)続出。


何なのよ、この国の有様、社会、生活環境。
私たちの生きてきた20世紀、私たちの生きている21世紀。
アライグマが悪いわけじゃない。連れてきた人間が悪い。
ラスカルよ、君はアニメの世界で活躍していればよかった。
北米の緑豊かな森を恋しがって、お寺の山門によじ登ったり、
爪とぎに世界最古の木造建築物を使ったりしてはならんのだ。
何も知らない丸い目をして捕獲された檻の中、
健気な瞳に欲深く先見の明を持たない人間の愚かさは、
どのように映っているのだろう。


そのつぶらな瞳に、君の瞳に乾杯したくとも、
人間は守るべきものを失い過ぎている。
気付くのが余りにも遅かったせいで。
世界に必要な人だからと、自分の幸せを諦めて人の幸せを、
人間の幸せよりも地球全体の幸せを、自然の尊厳を、
世界全体の幸せを願うような、そんな生き方ができる人は、
21世紀初頭、絶滅危惧種になってしまっているのだから。

絶滅危惧種の遺言 (講談社文庫)

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絶滅危惧種を見に行く―滅びゆく日本の動植物たち

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