Festina Lente2

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娘は早乙女

小学校5年生の体験授業。田植えの実習日。
朝から誰よりも張り切っているのは老父だ。
孫娘と一緒に田植えしたいばかりに、
孫が入学と同時にボランティアをかってで、
それ以来5年間、まさに老骨に鞭打って頑張ってきた。
草取り、稲刈り、餅つき、そして年末の注連縄と草鞋作り。


昭和一桁の父は義理堅い。
孫が参加する時だけ顔を出したのでは、地域に申し訳ないと、
5年がかりでのこの日の準備。年老いていく身の張り合いと、
孫の成長をひたすら楽しみにし、他の子供たちと触れ合い、
地域の自分より若い同年代の祖父祖母世代と触れ合い、
熱心に取り組んできた。その念願の日が今日。


娘達はというと、汚れてもいい靴下、Tシャツ、中には水着を着て、
軍手をして準備万端。古(いにしえ)の早乙女のあでやかな風情には程遠いが、
それでも、をのこをとめの群れ集う早苗取る小学校行事に
田の神様も満足なさったに違いない。土地神様も祝福して下さったことだろう。
そして、孫と共に、田植えについて説明し、手本を示し、共に過ごした時間、
老父にとっては、忘れることのできない輝かしい一日になったに違いない。

イラスト図解 コメのすべて

イラスト図解 コメのすべて


孫自慢、ひとしきり聞かせてくれた。
誰よりも上手に植えていた、まっすぐしっかり植えることができたと。
さすが俺の孫だと子供のようにはしゃぐ老父の喜ぶ笑顔。
たった一人の孫娘のために、色々と心砕いて頂き申し訳ない。
私が幼い頃から思春期にかけて、海外出張も含め単身赴任の連続、
母も辛かったろうが、父も寂しかっただろうと、この年にして思う。
誰よりも自分の子供の成長を身近に見たかっただろうに、それも叶わず、
オイルショック後は、ぼろきれのように会社から放り出された。


東北の田舎から出てきて都会で就職した企業戦は、
不本意な転職を重ねて、年老いて今、孫の成長を楽しみにしながら、
過保護と言われても送り迎えを楽しみにし、家庭菜園で野菜を作り、
持って行け持って行けと、季節の恵みを惜しげもなく渡してくれる。
その孫娘は早苗取る乙女と成長し、賑やかに喋り捲り、
「ちゃんと洗濯したよ」と言ったものの、その後、水着は洗い忘れて、
自室に置きっぱなしになっていたことが判明。やれやれ。


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やはり、田植えに水着は似合わない。
詰めに泥が入ろうとも、軍手も似合わない。
多くの子供たちが泥水の水面に苗を浮かせただけで、
土の中にしっかり埋めることはできなかったという。
田畑が残っている都会の田舎、田舎の都会でさえこうなのだ。
娘よ、我が家の家刀自を継ぐ者よ。
君が田植えの実習を楽しんできてくれて、良かった。
何も経験したことのないかーちゃんは、ある意味羨ましい。


核家族で育って祖父母を知らない今、君はある意味恵まれて、
(ある意味大変ではあるが)様々な経験をして大きくなった。
稲と同じように、この梅雨空の恵みを受けて、
娘よ、成長しておくれ。じいじ、ばあば、とーちゃんかーちゃん、
みんなの期待は重いかもしれないけれど、稲のようにすくすくと。
早乙女の君よ、早乙女の君よ。


君は我が家の家刀自を継ぐ者だ。
長女の長女の長女、早乙女の君よ。

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