Festina Lente2

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ゲゲゲの女房は新タイプ?

ゲゲゲの女房』が受けている理由は色々あるが、
何でもこの水木茂の奥さんことヒロイン役は
ドラマとしては珍しい新タイプらしい。
率先して動くでもない、目立つでもない、
しゃべるでなし、説得するでなし、
とにかく困ったなあという顔をしてため息付いて、
ご飯を作って買い物に行って、足踏みミシンで縫い物して。


ヒロインらしくないヒロインと言えば、そうかもしれない。
でも、まあ、昭和の時代の専業主婦、
別に家の中で四六時中お喋りをするよりも、
普通に家事をこなしている場面が撮りやすいのだろうし、
忙しくしている漫画家の夫の仕事を邪魔する饒舌な妻というのもおかしい。
かくしてヒロインは余り喋らない。
ヒーローたる夫も余り話さない。
貧乏神と別れて以来、忙しいこと限りなし。


だから「夫婦の会話」なんてものは、滅多に無い。
15分間の放映時間に盛り込まれることは結構どっさり。
仕事や恋愛、親子きょうだい、時代の流行風俗、
そしてみんなが思い入れする行事ごと。
TVやマイカーが贅沢品だった頃に、電話があり、
アシスタントが居て、大所帯の家屋を切り盛り。
どれだけ忙しかったことだろう。


だからと言って、夫婦の会話が少ないからといって、
夫が妻をないがしろにする訳でもないし、
妻が夫をこき下ろすでもない。
ごくごく当たり前な展開に沿って、物語は進む。
この状況にほっとするご家庭、多いんだとか。
会話が無くても円満夫婦、それは理想?
話さなくてはならないことは、話さなくてはね。

ねぼけ人生 (ちくま文庫)

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四六時中メールを送ってやり取りし、
ツィッターで「何とかカンとか、ナウ」と刻む。
考え抜いてメールをしたり、電話で直接話すでなし、
お互いに相手を案ずる気持ちはあるが、忙しさに取り紛れ、
大切な時間を共有すること無しに、年をとっていく。


メールで連絡を取っているから、助かることもある。
でも、携帯やメールのお陰で時間を掛けて思いを貯めて、
相手を思い遣りながら見守るような温かさや大らかさ、
ゆったりした時の流れのようなものは無くなって来たように思う。
そんな今の時代と比べてみると
余り会話も無いように見える主人公たちのコミュニケーションは、
今時珍しく、新鮮なのかもしれない。


いやいや、ヒロインが新タイプなのではなくて、
昔の生活を思い出させてくれる古い時代が注目されているのだ。
物語り全体を覆う高度好景気世代の昭和、
戦争の影響から抜けようとしても抜けられない昭和30年代、
オリンピックや万博という国を挙げての行事、
貸本から漫画雑誌の時代、テレビ漫画の時代、
昔を知らない人々には珍しく、私以上の年代には懐かしい。


ゲゲゲの女房』の背景にある時代に、みんなは見入っている。
自分の子供の頃、幼い頃、親と共に暮らした頃、若かった頃、
今とは比べ物にならない生活、ものが無かった時代、
物が増え始めた時代、そんな物言わぬ時代の流れが主人公だから、
登場人物たちは饒舌である必要は無い。
黙々と自分の置かれた状況を演じ続ける。
自分の役目を全うし、仕事をし、生活を切り盛りし、
子供の世話に追われ・・・。
それで、達成考えられた時代を懐かしんでいる。


ヒロインは積極的に何をするでもない、それが新タイプなのではない。
生活は本当に小さなことの積み重ね。
それが当たり前に描かれているだけに、尚更便利になり過ぎて、
自分たちが戻れない時代の手作りの厚み、感触を懐かしんでいるのだ。
昭和という時代を。

上手なドラマは人にものを語らせない。
背景に語らせる。
その方がより多くのものを伝えることができ、
より多くのものに感情移入させることができる。
主人公の力だけに、ヒロインの力だけに頼るのではなく、
それは人間関係であり、生活姿勢であり、哲学であって、
時代の空気立ったりするから、人はその場を共有しやすい。
その鉄則に従って作られているから、思わず引き込まれてしまうのだ。


自分と同じ時代を共有する人間と、同窓会で話が弾むように。
昔話に打ち興じるように。
むろん単なる懐古ドラマというわけではない。
そこに見出される何がしかが一人一人違っていても、
癒され、浸りたいものがある。
親子きょうだい、家族、仕事仲間、近所づきあい、嫁姑舅、
仕事のあるなし、貧乏と隣り合わせ、いじめ・・・。


辛くてもしんどくても哀しくても、笑いがある。
そんな家庭や時代の演出に、心惹かれて当然。
ヒロインのせいだけではなく。
自分を投影し易いものに、心惹かれて。

のんのんばあとオレ (ちくま文庫)

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水木サンの幸福論 (角川文庫)

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