Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

プレ誕生日はフランス料理で

実は娘のプレ誕生日を家族3人で先週食事をしたフランス料理店で
と思っていたのだが、家人は仕事の関係で都合が付かず。
娘と2人で止まり木で夕食と相成った。
外観はガラス張りの店。カウンターが良く見える。
カウンターからは調理しているシェフのお手並みを拝見。
なかなか滅多に見られない料理が出来上がるまでの工程を、
素人のかーちゃんとは異なるプロの手さばきを
間近で見ることができる絶好の機会・・・これも楽しみの一つ。



フランスはアルザスで修行をしたというシェフの家庭料理。
黒板のメニューから前菜、メイン、一つずつ娘に選ばせた。
食後のデザートは2人で半分こ。その前に、もう少し食べたくて、
お店特製のピクルスと豚足のカルパッチョを追加、
赤ワインを頼んでデザートまでのひと時をお喋りしながら楽しんだ。
薫り高いコーヒーを飲む前に、ほろ酔い気分になれるのは幸せ。



Botanique―店の名前に由来する植物たち。小さな鉢植えが並ぶ。
シェフが自分で焼いたという小鉢に盛られた苔、花瓶に生けられた花。
手入れの行き届いた新しい調理器具、黒いまな板、ぴかぴかのトング、
焼いたり蒸したり炒めたり、使い勝手のよさそうな小ぶりのフライパン。
あちらこちらの場所から取り出される食材の数々、
保存の利くもの、下ごしらえされた物、香辛料、盛り付け、皿。

季節の野菜の味をそのままに封じ込めた野菜の数々、
鶉に詰め物がされる様子、濃厚なチーズのリゾット。
あっという間に溶けていくヌガーアイス、酸味のあるベリー、
上げ膳据え膳はかーちゃんの極楽だが、見て食べて味わうことの出来る、
その楽しさを知るのは、早いうちがいい。
物心付いて、何か作りたくなったときに覚えている味、
記憶にある所作、食材、下ごしらえ、盛り付け。
いつかきっと役に立つ。


美味しい以上に、目でも舌でも味わえる世界。
娘が目をきらきらさせて、シェフが料理している様子を見つめている。
こんな風に特等席に座って料理している様子を眺めるのは、
いつかのスペイン料理の見せのカウンター、エル・ポニエンテの夜以来。
そう、家族で食事をする特別の行事のある時、いつもは行かない場所、
ちょっと気負って、でも打ち解けて食べられる場所。
家族のために私が見つけ、下見し、準備したこの店で。



こんな店を貸しきり状態で娘と二人きりで食事、何て贅沢。
いつもはシロから飲むワインも、今日は体調を考えて赤だけ。
でも、これ位が調度いいのかも、ゆっくり食事、ゆっくりお喋り。
娘と過ごす時間は殆ど無い。料理もいつもかーちゃんのパパパ料理。
名も無く冷蔵庫を片付けるだけに終わっているが、今日は違う。
プロが自分たちだけのために目の前で料理する、その醍醐味。


そう、自分自身は親とこんなふうに食事をしたことはただの一度も無い。
勤続記念に招いた店も、両親が食べやすいように和風の一部屋を借りて、
料理を運んで貰った。ある意味贅沢な会席料理、でも、しゃちほこばった感じ。
出来ればそんな風に正座して食べるのではなく、足を楽にして、
のんびり、でも少しだけ気取って料理を楽しみたい。


自分ができなかった事を夢見て、して貰えなかった世界に憧れて、
たった一人の娘を連れまわすのは、親の身勝手。
でも、1年に何度も無い、贅沢な外食の機会。
そんじょそこらで味わうことの出来ない世界を、10歳の最後の週末の花金に、
スポンサーはかーちゃんということで味わっても損は無い。
娘よ、いつかは自分で作ってみたくなるような、
そんな食の世界、味付けの中に、今夜のご馳走を記憶にとどめておいて。


君が今のかーちゃんの年になるまで、かーちゃんはおそらく生きてはいない。
元気だとしてもボケボケだろうと思う。
まだ現役のかーちゃんが動けるうちに、君が友達と遠くへ行ってしまう前に、
一緒にあちこち回って遊ぼう。時間の許す限り、身体の許す限り。
一緒に食事した店も、今まで何件潰れて消えて行ったことやら。
そう、不況の影響も馬鹿にはならない。
浮き沈みの激しい業界だから、ずっと味を守り続けて、
ずっとこの場所で営業なんて、本当になかなか無いこと。



だから、もう少しで11歳になる君の一日一日が、かーちゃんには愛おしい。
もう少しゆっくり成長してもいいぞと言いたいくらい、愛おしい。
Botaniqueのガラス窓の向こうに揺れる影、君と私の一日の終わり。

野菜のフランス料理

野菜のフランス料理

フランス料理の学び方―特質と歴史 (中公文庫)

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