Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

カポディモンテ美術館展

謎の美女アンテアの強い眼差しはずっと私を捉えていた。
この秋を逃したら、私に逢う機会は2度と無いかもしれないのに、
どうしてあなたは来ないの? そんなふうに問いかけられているよう。
どうしてもっと早く来なかったの?と。


ナポリを見てから死ね」という言葉があるが、ナポリを訪れたのは30年前。
大学生協のツアーでは、バスで街中を通り抜け丘の上から海と街を見下ろし、
「危険だから通りを歩かないでくれ」と申し渡され、
海の幸や美味しいピザを味わうどころか、美術館を訪れることも無く・・・。
お陰で死ぬことも無く長らえて、今日ここにあるわけだが。

  


アンテアはナポリの町を見下ろす丘の上、カポディモンテ美術館の看板娘。
遠路はるばる京都までやってきたわけだが、京都文化博物館は明後日から、
半年余りのリニューアルを控えて、本日花金の夜間開館展示。
するっとkansaiを使って、片道2時間余りをかけてやって来た私。
家族と共に見られず残念だったけれど、ナポリの宮廷の美は私を魅了した。
ファルネーゼ家が蒐集したルネサンスバロック美術作品、
ブルボン家が蒐集したナポリバロック美術の作品、
ヨーロッパの名家の鑑識眼の確かさ、鋭さが窺える名作名品たち。


来たよ、会いに来たよ。私は心の中でよく美術品に呼びかける。
何度かの海外旅行や国内の展覧会等で出逢うこともある作品は、
うん十年ぶりに再会ということもあるが、今回は違う。
作者名作品名は知っていて、見聞きしたことはあっても
実際に見(まみ)えるのは初めてという作品が殆ど。


その最たるものが、謎の美女、アンテア。
豪奢な衣装に身を包んだ立ち姿、娼婦なのか貴族なのか、
謎を秘めたまま、強い意思と知性を感じさせるその瞳、
かすかに捻った体はややこちらを向いて、今にも動き出しそう。
マニエリスムという言葉を知ったのは大学の頃。
あれから遠く来たもんだ。バロックだゴシックだ、
キリスト教に由来する様々な聖人、持物(アトリビュート)、エピソード。


間近に見る改悛のマグダラのマリアの涙に、
敵将の首を捻り取るユーディットの凄まじさに見られる画家のトラウマ、
音声ガイドは最新式。紙片の画像をペンで指し示すと説明が流れてくる。
ヘッドフォンも頭にかけるのではなく後頭部から首にかけてなので、
締め付け感が無く、耳も痛くなくて楽だ。


誰もが美術品鑑賞を楽しめるように、展示の仕方に工夫を凝らし、
説明を加えるのは珍しいことではなくなってきた。
ことに、キリスト教文化に造詣が深くなくては理解し難い宗教画関連は、
わかりやすい説明が要求される。
何ゆえにこの題材が選ばれたか、寓意をどこに求めるか、
描かれている人物は誰なのか、その背景、エピソード。


マンテーニャ、パルミジャニーノ、・ティツィアーノ、・エル・グレコ
ジェンティレスキ、カヴァッリーノ、ジョルダーノ、
暗い色彩、躍動感溢れる構図、劇的な空間、静かな余韻、
若い頃とはまた異なる思いで様々な絵画の間を縫って歩くと、
形容し難く心の奥に湧き上がってくるものを抑えることが出来ない。

ナポリの肖像―血と知の南イタリア (中公新書)

ナポリの肖像―血と知の南イタリア (中公新書)

ナポリ―バロック都市の興亡 (ちくま新書)

ナポリ―バロック都市の興亡 (ちくま新書)


ここ、京都府立文化博物館は出来て間もない。というか、間もないと思っていたが、
それでも20年以上経つ。だが、就職後の開館だったので縁が無く、
わざわざ訪れるようになったのは、子どもが生まれてからだ。
学生時代から20代、30代前半までは関西一円の名だたる美術館、博物館、
展覧会は舐めるように見てきたが、その気力も衰え、仕事に流され、
一人で静かに絵や音楽に向かい合うことがなくなって久しい。

  

  


ここ、京都文化博物館のこじんまりした雰囲気は、京都市立美術館や国立美術館の、
大々的な仰々しい広さとは異なり、身体に優しい大きさなので見て回りやすい。
それでも、常設展会場も持っているため、何もかも見ようとするととても時間が掛かる。

  

  


常設展も何度見ても見飽きない。京都というの街の歴史、伝統行事から明治維新後、
様々な権力の舞台となり、戦乱に巻き込まれてもタフに生き残ってきた街、
その歴史を紐解いて、映像で、人形で、絵巻物で、展示物で、ジオラマで、
様々なもので紹介してくれていたので、楽しかったのだが・・・。
リニューアル後はどんなふうに様変わりするのか。
半年間の工期は短い方だから、青写真の元、サクサクと改装は進むのだろうが。

  

  


明治建築の趣きを残して、街に溶け込んでいる、
音楽ホールや喫茶室、ミュージアムショップにお土産やさんを併せ持った、
この場所にしばらく凝られなくなると思うと、やはり寂しい。
思えば結構ちょくちょく来ている。
娘もお気に入りの場所なのだ場所なのだ。
半年余り先まで、京都文化博物館
この界隈にやってくることも無いだろうから、今宵のうちにご挨拶。
少し早いけれど、良いお年を。