母の誕生日
今日は母の78歳の誕生日。おめでとう。
今日が何の日か、
肝心の本人はよくわかってはいないようだけれど・・・。
もしも「病気」でなければ、当たり前に普通に、
金婚式も誕生日も色んな記念日をきちんとしたかったのに、
節目節目をなにもできないまま、してあげられないままで、
迎えるというのは、子供の側としてはちょっと辛い。
今日が誕生日だよと言っても、少しは嬉しそうな顔をしたのか、
していないのか、お出かけを誘ってもどこにも行かないまま、
定位置でじっとしている母。
もしも母と同じ年に、母が私を生んだ年と同じ年齢で、
娘を産んでいたとしたら、娘は26歳のはず。
でも、残念ながら、今年の誕生日が来ても娘はやっと12歳。
今の私の年齢は、結婚した娘がいてもおかしくない年。
孫がいてもおかしくない年齢。でも、現実は違う。
友人たちは子育てをとっくに終えて、悠々自適だったり、
第二の人生を送っていたり、様々。
もしも母と同じ年に、せめて結婚だけでもしていたら、
もう少し大きな子供がいたかもしれない。
子供も一人じゃなかったかもしれない。
今のような家庭を築くことなく、世間一般的な
(何を持って一般と称するべきなのか、疑問だが)
娘にきょうだいをつくってあげられていたかも。
でも、それはどうかわからない。何もかも。
いつ結婚できて、子供を授かって暮らせているか、なんて。
もしも母と同じ職業に付いていたら、
もしも母が望むような仕事や家庭を築けていたら、
もしも母に心配を掛けるような家人の病気や入院、
その他様々なことが起こらなければ、認知症は進まなかった?
何がきっかけで、どんどん一人で狭い小さな部屋に、
限られた記憶の中で暮らすようなことに?
もしかすると、私もあと10年ぐらいしたらそうなる?
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もしかしたら、そんなにも忘れたいことが沢山あったのだろうか、
忘れていくことが必要だったのか、
何も見聞きしたり感じたりせずに済むような、
そんな風に少しずつ自分の世界を閉じていく、
関わりを持たずに生きていく、そうしなければならないほど、
そんな風になってしまうほど?
したいことは無いの? 食べたいものは? 着たいものは?
あなたがいつまでも保育園児だと思っているたった一人の孫は、
もう6年生になるよ。私に背が届くくらい大きいよ。
自転車の後ろに乗っけて音楽教室に連れて行ってくれた、
私が戻れない時にお迎えに行ってくれた、
長女の長女の長女は、すくすくと大きくなっているよ、
お母さん。見えている? 聞こえている? 分かっている?
母の誕生日の向こうに見えるものは、
自分の同じようなことになるのだろうかという、
ぼんやりとした不安。甚だ心もとない。
何故、母を基準にものを考えたりしているのだと、
はっと気が付いて苦笑いしてみても、始まらないのに。
かつて厳しいだけの、要求水準が高く口うるさい母が
どこにもいない。
ただただ、日に日に萎んでいく、
判で押したように同じことしかできなくなっている、
好きなことばかり繰り返し行って、閉じこもっている、
それが日常生活になっていることに、
もしも母が元気なままだったら? と考えてみたりもする。
もしも、変わらないままだったら?
いや、人間、変わらないでいるなんてあり得ないけれど。
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認知症の患者がわがままを一番言うのは、一番心を許している相手、
一番素の症状を出しやすいのは家族、
他人の前では取り繕いしっかりしているように見せても、
実際はできないことがどんどん増えていく。
でも、自分から動いたり食べたりしてくれていれば、
それはそれで、いい。
でも、「お袋の味」だったり、様々な当たり前にしていたことが、
一つ一つできなくなっていって、年を取るということは、
子供にとってはやはり悲しい。
年を重ねるということは、何かができるようになる、
人間として少しずつ完成形に近づいていく、
そういうイメージを抱き続けてきたのに、今は違う。
「大人」に一歩一歩近づいていく時代から逆に、
人としての輪郭が少しずつぼやけてくるような、
そんな感じになってしまった母がいる。
還暦を過ぎて、干支を一回りしたら子供に還っていく。
むろん、矍鑠(かくしゃく)としてそのままの人もいるけれど、
「子供に還る」自然の摂理に逆らわず、
親は年を取っているのだからと言われて喜べるはずもない。
分かり合える部分が少なくなってしまって、
こちらが一方的に分かろうとしないと、
ある意味諦めてないと仕方が無い部分が増えていく。
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いつか自分も娘にそんな風に見られてしまうのだろうかと、
高齢出産で授かった娘の足を引っ張るような存在に、
嘆息をつかれる有様になってしまうのだと考えると、
これはこれで苦しい。マイナス思考だと分かっていても、
元気で頑張らなくちゃねと、素直に笑えない。
娘からは以前「70歳まではぼけないでね、約束よ」と
冗談以上の本気で約束させられているが・・・。
元気で若いうちに、心身共に余力のあるうちに出産・子育て。
少しでも「若くて綺麗で元気なお母さん」(!?)を
知っていてもらいたかったけれど、
君が生まれた時から少々くたびれてしまっている、
そんなかーちゃんしか見せてこられなかったなあと、
誕生日ごとに悲しくなる。
そして、思い出の中の母の若かりし頃をなぞってみる。
古いアルバムの中の写真の母を。
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