Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

「みんぱく アイヌのくらし展」

私の心の中の「アイヌ」は、未だはっきりしたイメージを持たない。
小学生の低学年の頃に見た、『太陽の王子ほるすの大冒険』というアニメに、
ヒロインで出てくる悪魔の妹役、ヒルダの服装がアイヌの女性のイメージだ。
実際は違うのかも知れない。ただ、アニメの背景が冬のイメージだったので、
そうなってしまっている。厳密には違う。
頭ではわかっていても、すり込まれたビジュアルなイメージはなかなか消えない。
ついでに、インディアンの女性のようなイメージも、
イヌィットのイメージも重なって、心の中で揺れている。
冬の国、寒い国の人々。そういうイメージが強い。


太陽の王子ホルスの大冒険 (ジブリ・ロマンアルバム)

太陽の王子ホルスの大冒険 (ジブリ・ロマンアルバム)


ユーカラの国、クマを神と崇めて祭る人々。
笹の葉だったっけ? 柳の葉だったっけ? あの魚、シシャモ。
マキリという細い小刀は、娘の好きなアニメの登場人物が持っていた。
ぬらりひょんの孫』に出てくる遠野の妖怪、カマイタチのイタクの技が
レラ・マキリだったことを思いだす。
マキリの柄や鞘には丁寧な細工、文様が彫り込まれている。
好きな女性に贈る品でもあった、マキリ。



魚の皮で作られた衣装、草を編んで作られた鞄。
独特の文様は左右対称、線対称。
子ども達の髪飾り、服の背飾りに神の守り、祈りを見る。
そう、この展示は「とる、たべる、すまう、よそおう、いのる」
5つのコーナーから成っている。
それぞれアイヌの言葉を用いて展示されているが、
今までの展示の仕方と変えたのか、工夫したのか、
従来のみんぱくの展示の仕方よりも簡素で見易い分、インパクトに欠ける。


  


素朴過ぎるというか、何というか。
昔はもっと学術的な説明を凝らしていたような、そんな記憶があったのだが。
限られた時間で見学したので、あっさりと見ることが出来て助かったが、
心なしか何科もの足りない。
大きな船が余りにも素晴らしく、模型の数々も素晴らしいのに、
どうしてこうも心寂しい思いに駆られるのだろうか。
最終日に滑り込んだこの展示を眺めながら。



アイヌ展。ぎりぎり見に来られて良かった。
それにしてもアイヌに関する様々な資料、展示物が日本にあるのではなく、
ドイツの博物館から来たということが驚きだった。
ライプツィヒドレスデン民族学博物館から152点の資料と、
30点あまりの写真を借用して展示というから凄い。
もっとも、これだけの品々を集めて研究しようとする姿勢もさることながら、
きちんと今まで大切にされてきていることも。
革命とも言うべき明治維新以降、北海道開拓はアイヌ迫害の歴史に他ならない。




そういう民族自決主義時代を背景にしながら植民地政策と対抗、
北方領土に関して神経質にならざるを得なかった時代、
支配を強化するために、折り合いを付けてきちんと棲み分けしてという、
穏やかな統治政策を取ることなく、追いつけ追い越せの近代化を急いだ日本。
しかし、その大切な北方領土は、降伏寸前の弱みにつけ込み、
一方的に宣戦布告をして来たロシアに略奪されたまま今に至る。


そこに住んでいたのは、日本人でもなく、ロシア人でもなく、
元々はアイヌの大地、アイヌの島、アイヌの暮らす場所だった。
北海道には沢山先住民の言葉を元に地名が付けられているが、
残念ながら、一度しか北海道に行ったことのない私は、
地図上で見る不思議な響きの言葉が、日本語起源ではないのだと、
ただただ語感から感じるばかり。
そして、小金井良精が関わっていたことに驚いた。
医学者、解剖学者だとばかり思っていた彼が、
(星新一の祖父にも当たるが)アイヌ研究に一役買っていたとは。


祖父・小金井良精の記 上 (河出文庫)

祖父・小金井良精の記 上 (河出文庫)

祖父・小金井良精の記 下 (河出文庫)

祖父・小金井良精の記 下 (河出文庫)


そして、2年間だけ暮らした徳島県鳴門市にある鳥居龍蔵記念博物館を、
懐かしく思い出した。城の形をした博物館を家人と歩いてまわった昔を。
今は、移転し徳島市内に新しい形で展示されているらしいが、
(→http://www.museum.tokushima-ec.ed.jp/torii/index.htm
まさか、今回のアイヌ関連の展示の中に、彼の名前を見つけるとは。


鳥居龍蔵伝―アジアを走破した人類学者 (岩波現代文庫)

鳥居龍蔵伝―アジアを走破した人類学者 (岩波現代文庫)

民族学者 鳥居龍蔵―アジア調査の軌跡

民族学者 鳥居龍蔵―アジア調査の軌跡


どうして日本に保存されていないんだろう? 民族差別?
学問的に遅れていたから? アイヌはヨーロッパ人と同じ種族だと、
子どもの頃読んだ本には書いてあったが、今ではそれは否定されている。
文字を持たなかったアイヌの文化は、あっという間に詳しいことがわからなくなったと。
強行手段でもって固有の文化を壊したのは「本土」の人間。


アイヌの昔話―ひとつぶのサッチポロ (平凡社ライブラリー)

アイヌの昔話―ひとつぶのサッチポロ (平凡社ライブラリー)

カムイ・ユーカラ (平凡社ライブラリー)

カムイ・ユーカラ (平凡社ライブラリー)


両親が東北人の私の体の中には、多かれ少なかれご先祖様から受け継いだ、
北方先住民族の血が入っているだろうと思っている。
だから、きっとアイヌ同様の遺伝子も持っているに違いない。
もののけ姫の世界や、『満月』に描かれた先住民族
坂上田村麻呂と戦った、大和民族多賀城を築かせた先住民族は、
私の頭の中ではエスキモーとダブってしまう。
なぜならば、用いられている文様、モチーフの作り、雰囲気が、
昔の表現をするならがカナディアン・エスキモー。
今で言うところのイヌイットの文化と似通っているから。

アイヌの世界 (講談社選書メチエ)

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アイヌ語地名で旅する北海道 (朝日新書)

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どこか懐かしい、そして哀しい、そんな思いを、
何故か心ひかれる、けれども自分の知っているイメージとは少し異なる、
ドイツの所蔵品と、日本の所蔵品を付き合わせた展示、
もっと見たいと心残りではあるが、次の予定へ急ぐ。
展示最終日2日前の今日。副題―ドイツコレクションを中心に―
「千島・樺太・北海道 アイヌのくらし」

知っていますか?アイヌ民族一問一答 新版

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