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『幸せの教室』

大人のための癒し系映画。というか、
トム・ハンクスはいつからこの手の映画専門になったんだ?
最近は軽めの映画やアニメの声優など、そんな仕事が多くないか?


以前『ターミナル』を見た時も、似たような内容だったと記憶している。
主人公の生き方、言動が全て。主人公のキャラクターが全て。
その真摯というか、めげない、へこたれないまっすぐな気持ちが、
周囲を動かして、いつの間にか物事がいいように動いていくという、
お決まりのパターン。
悪をくじくヒーローじゃないけれど、「弱きを助け」に通じるものがある。


世の中にリストラ、理不尽、不条理、いじめ、降って湧いたような災難、
色々思うようにならないことは多いけれど、それでもなお、
偶然と、運を切り開く前向きな精神と、誰もが同じ寂しさを共有している、
そのことを忘れないで生きる優しさがあれば、人は再生できる。
そんなテーマが根底にあると見ていて安心できることはできる、
けれども、何だか嘘臭いような、安易に信じると痛い目に遭いそうな、
そんな不安が込み上げて来るのは、自分の生き方、ライフスタイル、
仕事経験、これまでのあれこれすったもんだの為せる業?


というわけで、『幸せの教室』という抹香臭いというか、
説教面しているというか、ちょっと抵抗のある題名のせいで、
映画を見るのをためらう人も多いんじゃないだろうか。
もっとも、トム・ハンクスのファンならば見るだろうし、
ジュリア・ロバーツのファンならば尚更見たくなるのかもしれない。
安定した演技、ジェットコースタームービーではない落ち着いた時間、
そういうものを期待して観る人も多いだろうから。


ハートフルラブコメディ。こういうものを見たくなるのは、
心が疲れている時かな、逆に疲れたくない時かな。
でも、何だか観て良かったという満足感が心から湧き上がってこないのは、
たまたま映画に割り当てられた上映スクリーンが、
シネコンの中でもっとも小さい部屋のせいでもないとしたら、
何だったのだろうか、この納得できない感じは。


そうだ、大卒ではないという理由で解雇される優秀な店員。
そこに引っかかっているのかも。
大卒だから昇進できない、なので会社から首を切られる。
現実には、大卒だろうが使えない奴は使えないという、
厳然とした事実があるのに。
高卒だから仕事が出来ない、そんなわけあるはず無いのに。


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しかし、アメリカは日本と違って途中から単位を取り直したり、
経済的な余裕が出来てから大学院に入りなおしたりと、
日本では出来ないような履修システムがある。
最近、社会人陰性を受け入れてくれるようなシステムも出来てきたが、
基本的には一旦大学を離れると、勉強し直して専門分野を究め、
象牙の塔の一角を汚すなどという恩恵に与ることは稀だ。


この話のように、「おじさん」でも若い仲間が出来て、
大人として社会人として、「先生」とも仲良くなり、
良識のある成熟した関係を築いていく、
新しい職場で仕事をこなし、生活を立て直していく、
そういう希望溢れる設定が待ち受けていることが難しいだけに、
敢えて、この話は「明るい未来を見据えた」形、
人の可能性や善意を信じる形で作られているのだろう。


そう思うと、何か切ない。映画の内容が悪いわけではない。
でも、中高年に未来を与える、希望の種をまく、
リーマンショック以来の不況に喘ぐのは、いずこも同じ、
理不尽な雇用状況に抗うべく孤軍奮闘するのは、
生き方を変えるきっかけを掴むのは、その難しさは、
国や年齢に関わらないのだというヒューマニズムを、
素直に受け止めるには、ちょっとひねくれてしまった私には、
なかなかすっきりしない映画だった。
それだけのことなのだ。


悪い映画じゃない。けれど、心の奥底まで深く、
食い込んでくる以前に、まあ、こんな能天気に、
運良く明るく物事が解決するような方向に向けば、
人生苦労しないよねとぶつぶつ呟く自分自身を消し去って、
映画に没頭できなかったのは事実、哀しいけれど。


ちなみに原題は『Larry Crowne』主人公の名前。
これではとても売り込めないから、『幸せの教室』とした方が、
確かに良かったと思う。
ちなみに、映画の中に出てくる経済学の先生、
ジョージ・タケイエド・マツタニ)が懐かしかった。
あ、カトウだ! と条件反射してしまう。
スター・トレック』の話題が出てくるのも、ちょっとしたお楽しみのツボ、
映画ファンへのサービスだったのかもしれない。


ということで、設定とストーリー展開にはまんぞくできなかったものの、
ところどころで薀蓄も笑いのお年どころもあって、
中年には懐かしいと思える場面や会話もそれなりに、の作りではあった。
でも、もう少しスケールの大きな話が観たいなあ・・・。