Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

ホーロー鍋恋し

関東に来てから天気が悪い。
雨、一日中雨。どうしてこんなに降るのか雨、雨、雨。
関東にやって来て丸1日半から2日たち、
思っていたよりも寒くはないなと感じていたが、
余りに激しく降る雨に心が萎えてくる。
そう、自分が晴れ女だと思っていただけに、上京時の雨模様、
東京駅のライトアップが中止になったことなども尾を引いて、
一昨日、夕方に合わせて何とか仕事と家事を済ませて
ここまでやって来た意味が半減してしまったような、
そんな思いに囚われている。


半世紀を超して世の中とすったもんだしているのに、
スマートに生活できない事が空しい。
出来ないことと出来ることがあるのが分かっているのに、
あれこれ比較して悩ましい。


せっかく作ろうと思った夕食も、?な食材が現れるとがっくりくる。
例えばおでんを所望されて作る気でいても、こんにゃくがない。
買い物を頼むと、予め小さく千切られたこんにゃくを買って来られ、
・・・目が点になる。何故こんなものを?
娘も一緒に付けたというのに二人して、
「食べさせたこともないようなシロモノ」を買ってくる。
どうしてもそれで料理をして貰いたいのか、
それともこんにゃくなら何でも良いのか。


何度も食事を作ってきたが、自分が使ったことのない素材、
使う予定のない素材、そういう物をいきなり目にすると、
今まで色々作って食べさせてきたり、一緒に外で食べたり、
そういう積み重ねは何だったのかと思う。
コンビニのおでんのこんにゃくでさえも白滝ではない限り、
厚切りの歯ごたえのある大きさなのに、
よりにもよって何故こんなものを? 
それだけで心が萎える。
おまけに茶色に萎びている葱までも買って来られては。


夏の引っ越しと家人の転勤以降、
この新しい(建物はとても古い)住まいでつまづいた事は多々あるが、
自分の存在価値を唯一示せると言ってもいい食事作りに不可欠な、
この家の台所に馴染めぬことが難点だ。
狭いことでもガス台が左勝手なことでもない。
今まで使い込んできたホーロー鍋を無断で捨てられたことにある。


引っ越し準備時、台所用品を詰め込んだ家人。
自分のものを自分で詰めればいい物を、
私がいない時に片付けてしまっていた。
料理担当者の意見も聞かず、傷が入っているだけを理由に、
15年も使い込んできたホーローの鍋は、
知らないうちに捨てられてしまっていた。


新しい鍋を買えばいいとか、
圧力釜があるだろうとか言う問題ではない。
早く煮炊きできることと、煮込む時間台所に立つ、もしくは
煮込む間別の作業をすること、鍋が煮えるのを待つことは全く別だ。
心忙しい仕事の合間、フルタイムで帰宅した後の料理、
無味乾燥な銀色の圧力鍋で一気に大量に作るシチューなどではなく、
白地に花模様のあるホーロー鍋で煮含める、
見慣れたいつもの鍋を使って料理する、
それがどれだけ精神的な安定を支えてきたのか、
殿方には分からないらしい。


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私は料理は嫌いではない。
特に、名前の付くようなものは何一つ作れないが。
その時、そこにある食材を使って、作る。
季節に応じて作る。寒い時には温かい料理を、
熱い時には口当たりが良く食べやすい物を。
ただ、それだけ。栄養のバランスと彩りを考えて。
高い食材など使いはしない。


調理器具も多くはない。引っ越しを前提にした台所は、
本来使いたい食器まで梱包したまま紐解かれることもなく、
何年も眠っている。フライパン、小さな中華鍋、蓋付き片手鍋
アルミ片手鍋、ホーロー鍋、圧力鍋。
アルミの片手鍋は取れ掛けた柄を付け直して使っている。
どれもこれも、10年から15年選手のツワモノだ。
料理を作る時の同志であり気心の知れた仲間。


いつもいつも温かい食事をよそう、あの幸せな時間。
家族の思い出を支えてくれた鍋釜の類を粗末に扱われた事に、
自分自身をそのように扱われたような思いさえしてならない。
年の瀬、料理を作る私の心は重い。
圧力鍋で、おでんを作ることができたとしても。
同じような練り物ばかり用意されたことも、
目の前に並ぶ食べる物だけにしか意識の行かない、
作る過程での作る側の思いなど知るよしもない、
そんな人になってしまっているのだなとさえ感じてしまう。


ものは壊れるものだという。
そんな当たり前のことを言われても、何の慰めにもならない。
使えるもの、使用に耐えるもの、壊れていないものを、
私自身に属するものをあっさり捨てられてしまった事が、
私を限りなく落ち込ませている。
激しい雨は、更に私を冷たく情けない思いで満たす。
鍋釜の一つへの執着、他人様は愚かしく思うだろうが、
一事が万事、私はこれからこのように取り扱れるのだろうと
思われてならないことが、私を暗澹たる思いで満たす。

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