Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

飾−装剣金具の粋

ジオラマ展、クールベ展と展覧会の話題が続いたので、
約1ヶ月前の2月の連休の中日、2月の10日のことだが、
忘れないうちに記録としてあげておきたい。
こじんまりとした展示に見えるかも知れないが、
非常に珍しく、更に分かり易く、
学芸員さんの熱意が伝わってくる内容の展示。


    


大阪府弥生文化博物館で行われていた冬季企画展
「飾 KAZARI 装剣金具の粋」だ。
ポスターもなかなか麗しく、センスの良いものだった。
展示内容も非常に面白く、細やかな細工物の好きな人、
日本の伝統工芸、江戸文化、刀剣に興味のある人、
むろん博物館美術館大好き人間にとっては、楽しい企画。


    


弥生時代、日本列島内に伝わった金属製武器類は人々の憧れの的。
その外装に数々の意匠を凝らして飾りたてたことは出土品から知ることが出来る。
古墳時代以降にも受け継がれ、権力と地位とを象徴する道具として特別に扱われ、
正倉院や歴史の深い社寺には今もなお数多くの遺品が残されている。


    


江戸時代、武家社会の確立と共に侍の外装には厳しい規定が出された。
しかし豊かな財力を手にした町人の中には、それぞれの好みに合わせた外装を製作、
自らの教養や財力を誇示する者も現れた。
それらの外装に用いられた装剣金具には職人の粋が凝らされ、
その意匠と細密な技法には思わず目を奪われるもの多々。
今もなお、その技術は伝承されている。



今回の展示で娘は「目貫(抜)通り」「鐔競り合い」など、
今に残る言葉の数々が、実は装剣金具にまつわる言葉から生まれ、
残っているのだと改めて知ったよう。
今時の若い人にはわからない、使わない言葉かも知れないけれど。
今回の企画で美しい工芸品と身近な言葉の由来との対比を勉強。



しかし、連休中のど真ん中とあって人出は少なかった。
真剣に鑑賞したい人間にとっては、静かな環境でじっくり眺められる、
展示に浸ることが出来るのはとても嬉しいことなのだが、
こんな立派な施設に、そしてこんな素晴らしい企画に、
どうしてこんなに人が少ないのだろうと思う。
そう、デパートと異なり、展示そのものだけの集客力は知れている。
車で来るしかない、周囲に何もない場所ではかなり無理がある。


  


土曜日のコンサートや講演会の時には人が沢山来るらしい。
リピーターも多い。美しい安らげる施設だが、
大阪府は財政難をすぐ口に出し、壊すと2度と同じレベルのものは作れないのに、
何もかも撤収しようとする「文化果つる都市構想」に奔走する連中が居る。
教育や文化は金食い虫だと、この数年多くの貴重な図書館その他の施設が破壊された。



不況の煽りを喰らい、寄付や後援は元より、何処の施設でも減っている。
基本バックとなる地方自治体が経営を切り捨てれば風前の灯火、
自助努力というが、公的施設の展示・展覧会は、
デパートの人寄せパンダ的展覧会にはなれない。
買い物をするために、ついででという集客数は全く見込めない。
展示そのものだけが命、常設展示も何度でも観られる、
いつでも見られるというのが目的の施設だ。


  


歴史のロマンを語る人は多い。社会勉強で訪れる小中学生もいる。
でも、地元にいる人間がどれだけここを訪れているか、
大阪府の施設を大阪の人間がどれだけ利用しているか、
非常に心許ない。大阪の美術館や博物館はみんなそう。
それでも、市内にあるような交通至便の地にあればともかく、
市外で、それも駅からも遠い、バスもない、
弥生時代の遺跡保護のちょっと辺鄙な場所に、
自家用車を使わずに、わざわざやってくる人は・・・。


    


縄文・弥生、特定の時代に特化した常設展示。
狭いながらも気合いの入った特別展示。
近くに居ながらも、車を走らせなければと思うとなかなか行けない。
堺市駅近くの与謝野晶子文芸館(ミュシャ美術館)のように、
駅から歩いて5分の場所でもいつもひっそりとしているのに、
この銅鐸を鳴らしに来る人は多くはない。


  


今をときめく3Dプリンターの技術で作られたお面。
ああ、考古学の世界もハイテクなんだなあと思いながらも、
そういう世界を知らずに、貴重な展示内容を多くの人が知らずに、
終わってしまう場合が多いんだなあとがっくり来てしまう。

図説・日本刀大全 2―決定版 名刀・拵・刀装具総覧 (歴史群像シリーズ)

図説・日本刀大全 2―決定版 名刀・拵・刀装具総覧 (歴史群像シリーズ)

江戸幻想奇譚―刀剣金工図絵

江戸幻想奇譚―刀剣金工図絵



デパートで行われる展示・展覧会はもともと人が集まる場所。
見るつもりがなかった人でも、ふとその気になって、
ポスターにつられて見て帰ったりする。
少々入場料が高かったりするのだが、先日の京都高島屋などは、
夜6時を過ぎると半額にしていたのではなかったかな。
最近流行の夜間割引、あれはなかなかいい手だと思う。


デパートは販促グッズとしてもちろん招待券もばらまく。
「買い物ついで」の集客数は馬鹿にできない。
逆に展覧会目当てで私たちのようにわざわざ来て、
そのついでにカタログや絵はがきなど関連商品を購入、
お金を落としていく、そういうお客さんは多い。


土日のデパートの混雑はそれに輪を掛けて集客率が高い。
その中で展示され、人々の記憶に残る品々、企画は幸せだ。
せっかくのいい企画、展示、発想。
我々に残された先人の知恵や文物を、若い人々にも知って貰いたい。
そういう試みは、何故、行政や教育機関で力を入れられないのだろうか。


各部署に送られるポスターも展示内容も、単なるダイレクトメールとして、
貼られることもなく、招待券が配られることもなく、
担当者の机に山積みで捨てられることも多いと聞く。
勿体ない話だ。教育機関の図書館に支所を置く予算がない、
元より学校図書館を情報発信の場にする発想はなく、
本置き場、倉庫としか思っていない輩、
利用の仕方を知らない人間も多い。
まして、美術館・博物館の活用の仕方を考える行政担当者は少ない。


1ヶ月前美しい飾りの展示を眺めながら、改めてデパート展示との差を見て、
愕然とする、3月の半ば。

博物館危機の時代

博物館危機の時代