Festina Lente2

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実家の薔薇が減った

あちらこちらのブログでは薔薇の記事が見られるようになった。
関東は関西よりも花が咲くのが早いように感じられるのは何故か。
こちらが、関西でも少し山手に住んでいるからなのか。
田舎、都会の田舎に住んでいるというのに、花が年々減っている。
かつて自分でも苗を買ってきてせっせと世話をした花々、
特に薔薇の花が今年は少ない。
実家の薔薇の花は年々減っている、枯れて、消えていく。


薔薇は金食い虫、肥料も水も、手間も時間も食う。
80を過ぎた年寄りだけの世話でも手に余るのだろう。
家族で食べる分の野菜、そして、趣味の植木といえば聞こえはいいが、
最近では雑草の隙間に野菜を植えているのか、
野菜の隙間に雑草が生えているのか分からなくなってきた。


それでも、薫り高い5月、ジャスミンは例年より遅かったが咲き、
光溢れる庭には、それなりに春爛漫、初夏の香り、と思いつつも、
昔のようなむせかえる草の匂いよりは、排気ガス
そういう場所に実家はある。高速道路に囲まれた坪地のような、
誠に騒音と排ガス、震動に悩まされる場所。
開発から取り残されたというか、脇道だから無視されたというか、
環境上不利不衛生極まりないと言っても過言ではない。


かつて、高速道路が出来るまで、山の斜面に建った田舎屋には、
薫り高いピンクのつるバラが塀を這い、真っ赤なビロードの花びらの大輪、
軽やかな黄色い花びら、赤白混じったモダンタイムス、
古式ゆかしい色合いのピース、青薔薇とも言えど紫、優しげな白薔薇
そういう薔薇が挿し木・挿し芽をして増やされ、手入れされ、
雑草など寄せ付けずに誇らしげに咲いていたものだ。


しかし、年老いた両親には庭仕事さえも負担大。
庭の野菜と花々、優先事項は日々の野菜となれば、
花は放って置いても咲くもの、雑草の如き生命力のある、
こぼれ種からいつのまにか、そんな浸食性の強いもの、
いけずうずうしく他者の領地から養分を吸い取れる根のある、
したたかなモノばかりが大きな顔をするようになった。


なので、ふと気が付けば実家には薔薇の花が何と少ない、
ひょろひょろと肥料無く背ばかり伸びて、消毒もされず、
文落としに葉も蕾も囓り倒された様な茎ばかり。
心荒れた風情の庭が、よく手入れされた大山崎の庭園と比較されて、
心淋しく思うものの、自分自身が手入れをする時間も無い。


薔薇が少なくなった。
その庭は、体力も気力も衰えた親と、
自分のことばかりにかまけて時間の余裕のない娘と、
植物の手入れの仕方さえ知らずに育ってしまった孫の、
寄せ集めではどうしようも出来ない象徴。
薫り高い五月。それは、夏炉冬扇の読み物の中の世界。
その言葉の虚ろな響き、眼前は雑草生い茂る五月。
咲き誇ることの出来ない薔薇を目の前に、やるせない。


五月病は新入生ばかりの問題ではなく、
それまで長期間持ちこたえることが出来ずに綻びていく、
人の心も家も庭も、全てが活き活きとしているようで、
移ろいやすい下地を塗り隠す様な、
年季の入った物事や、人や、人間関係の中にもはびこっていて、
それは家族の歴史も同様で。


「薔薇は何の名前で呼んでも美しい」と言ったのはゲーテだったが、
名前を持っていても、わかっていても、
名前負けするような有様を呈していることを意識する時は、哀しい。
人であってもモノであっても。
だから、薔薇の咲く季節だったかと改めて思う時、哀しい。

美しく病気に強いバラ 選りすぐりの200品種と育て方のコツ (別冊NHK趣味の園芸)

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