Festina Lente2

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あれから1年

あれから1年経った。気が付かないのか、気付かない振りなのか。
あれから1年経った。砂を噛むような思いだとは、言わない。
貴方は何も言わない。それが貴方の強さなら、
私も、何も問いかけまい。
貴方は何も言わない。それが貴方の無頓着さでも、
私には、もはや、どうでもいい。


私達は、どん底だったし、私達は絶望していた。
もう、終わりだと思っていた。
何のために出会って、何のために生きてきたのだろうと思った。
信じることは馬鹿馬鹿しく、愛することは虚しい。
全てが粉々になるのならば、最初から何も創り上げなければ良かった。
そう思って、病院を去ったのだ。


身も心も闇の中に引きずり込まれる。
ただ、溶けて行く。
その中で、一つだけ残ったものがあるとしたならば、君だ。
娘よ。
君が居たから、病院に戻ったのだ。
君が居たから、完璧ではない「健康」でなくても、
生きられるのならばいいと、生きる時間があればいいと
貴方はそこにとどまり、私は戻る決心をしたのだ。


私達は、自分の血と肉から生まれた者に、
自分の人生を見出したのだ。
再び、生き直すために。
再び、人間らしい生活をするために。
哀しみの上に喜びを、憎しみの上に労わりを、
嘆きの上に安らぎを見出せるように、誓ったのだ。


娘よ。
私達を繋ぐ娘よ。
奇蹟の中で健康に恵まれて生まれてきた、娘よ。
貴方と私を繋ぐ、ただ一つの存在。
私達が、生まれて巡り合って、
どうしようもない荒波の中にあって、
ただ一つの羅針盤として存在する、娘よ。


身も心も健康であって欲しい。
健やかに育つ君を挟んで、「ここ」に居ることだけが
私達にできる、最大のこと。
残された時間を最大限に引き延ばす事が、
それを可能にする(はずの)、力を信じる事が、
明日を、夢見る力を失わない事が、私達の務め。


娘よ。
私がめくるカレンダーを、君が見なくてもいいように
消えるインクで印をつけよう。
私がどうしても数えなければ、気がすまない1日1日を、
君の健やかな成長に置き換えて、過ごそう。
君の笑顔を守るために、私達は元気に過ごそう。
元気な振りではなく、心から楽しく過ごそう。
娘よ。


この1年を、創り上げたのは、君だ。
私達を、瓦礫の下から救い上げたのは、君だ。
貴方の健やかさが、私達の証であるように、
私達は未来へ向かって、生きる。
娘よ。
貴方に通じる、娘よ。
私から生まれた、娘よ。
未来への道しるべの、娘よ。


愛する、愛する者よ。