大人になるのが嫌だった
大人になるのが嫌だった。結婚なんて考えられなかった。
恋愛は、普通にしていたのにね。
子供のままでいる、大人には決してならない、
今よりも、ずっとずっと汚れていくような生き方は嫌。
そんなふうに考えていた。成長しないことを夢みていた。
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萩尾望都の『ポーの一族』は憧れだった。この作品もイギリスが舞台だ。
時代が現代に進むにつれ、物語の舞台がドイツのギムナジウムに移ったので、
大学時代の第2外国語はドイツ語を選択した。
それくらい影響を受けた。
アーサー・C・クラーク『地球幼年期の終わり』を読んだ時に、
「進化した不気味な子供」のままでいるのは、嫌だと思った。
でも、やはり大人にはなりたくなかった。
思えば、イギリスを中心とするヨーローッパが舞台の作品が好きだった。
愛読書の中に加えられた、小学校4年のクリスマスプレゼント、
ローズマリ・サトクリフの『太陽の戦士』を読んだ時から、
自分が「大人になる」事に、失敗するのではないかと
私はずっと、恐れていたに違いない。主人公と同じように。
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成人するために必要なハードルを越えていくことに、
ついていけない自分。
人と同じようにさくさくと、物事をこなしていけない自分。
ささいな、引っかからないくてもいいことにこだわり、
世間で言う所の「無駄な時間」を食う。
こだわりが偏屈になり、こだわりが孤独となり、
それでも、それが純粋ならば構わないという痩せ我慢の美学、
独りよがりの構図に心酔したのは、福永武彦の『草の花』のせい?
恋愛というハードル。成長するというはハードルを越えること。
自分で設定したのか、されたのか。やたら高いハードルを見上げて
敵前逃亡したのか? 「大人」にさえならなければいい。
しかし、その「つけ」は、全てから取り残されることだ。
『ポーの一族』のエドガーが悩んでいたように。
- 作者: 福永武彦
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中学校の時の読書感想文で知った、K.M.ペイトンの『愛の旅だち』も
どういうわけか、イギリスが舞台だった。でも、主人公達は、
屈託なく飲み食いし、成長し、結婚し、死んでいき、再婚し、
よく言えばたくましく、悪く言えば世俗的に生き抜き、
泥臭い葛藤は、とても自分の許せる範囲の展開ではなかった。
星新一のショートショートも好きだったけれど、それ以上に
壮大な異世界を構築する、長編の物語世界というものに
幻惑された文学少女の思春期は、実際は受験勉強に侵食されて
余り色々な作品を読めなかったような気がする。
空白で空洞の時代だったような気がする。
結局、手に入りやすい漫画に走り、少年漫画では
望月三起也『ワイルド7』の荒々しい優しさに惹かれ、
白土三平の『カムイ伝』の歴史観にはまっていた時期でもあった。
池田理代子の『ベルサイユの薔薇』のお陰で、日本の歴史と平行して、
世界の歴史にも興味を持ち、塩野七生を知る。
少女漫画では、言わずもがなの萩尾望都、美内すずえ、
木原敏江、山岸涼子、一条ゆかりに、どっぷり。
本格的な自由時間を手に入れた大学時代に、
いわゆる、児童文学を読み直していくことになる。
お決まりの世界の名作文学シリーズではなく、
『指輪物語』や『ナルニア国物語』という超巨編も、
今と違ってすいすい読めた頃、『トムは真夜中の庭で』は、
くっきりと心の中に「13時」を刻み込んだのだ。
『太陽の戦士』の主人公ドレムが、その身体的な障害ゆえに
「狼殺し」の成人の儀式をうける「自分」を
幼い時から意識せざるを得なかったように、
私もまた、明確な儀式があるわけではないのに、
「大人になれない欠落した部分」を、自分自身の中に
意識せざるを得なかった、あの頃。
心の中には、常に「13時」があった。
今でも時々ふと思う。13時に戻りたい、あの頃に帰りたい。
そんなことは不可能だとわかっていながら、
今の自分ではなくて、何も知らなかった頃、
無知だから、砕け散ることもいとわずに
欠落したものがわからぬまま、物事にぶつかることができた
当時の自分、あの頃あの時代を懐かしく思う。
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