Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

月の輝く夜に

子育ての合間にBSで映画を観る私。
本日、私の大好きな作品、尊敬する監督の作品、
独身の頃のほろ苦い思い出が蘇る作品、
ニコラス・ケイジが本当に若くて新鮮に見える作品、
シェールの演じるロレッタを取り巻くイタリア人社会の
ほのぼのとしたファミリー映画。「月の輝く夜に
残念ながら本日の月齢は、満月にちょっと足りない。
でも、まあいいか。


結婚に対する様々な様相が、さらりと描かれていて、
恋愛、親子、兄弟、夫婦の在り方、浮気、不倫、片思い、失恋、
出会いときっかけ、迷信とファンタジー、月の不思議な魅力、
そういう物が、ほどよくミックスされている作品だ。
ウイットに富んでいて、笑えるし、泣ける。
見た後、落ち込まずに済む。
             


時々変に頭の堅い人が、どうしてロレッタは婚約者の弟と
あんなに簡単にできちゃうの? とか、
教会で懺悔しただけで、何でもチャラにできちゃうの? と
息巻いたりするみたいだけれど、「練れた恋愛」と「惚れる恋愛」は
紙一重だからねえ・・・。これはこれで、楽しんで観なくては。
それよりも、月明りの魔力で恋が成就して、
夫婦の絆はより強固になり、マザコンは取り残される、
で、それなりにめでたしめでたしだと思えば、いいじゃないの。


私は若い恋人(婚約者の弟)とのオペラ・デートの前に、
今まで頑として断っていた白髪染めをして、髪形を変え、
マニキュアをして、洋服や靴を買い、おしゃれをする
30台後半の未亡人の、ウキウキとした変身シーンが大好きだ。
ほんの少し若返って恋を楽しむ、心の華やぎを秘めたシーンの
初々しさを通り越した、下手すると悪あがきにもなりかねない
かわいらしさを持つデートシーンの小細工がオペラと月。
ハイヒールを脱いで、朝帰りものびのびとして美しい、
解放感一杯の雰囲気が大好きだ。
映画の季節は真冬なのに、ほのぼの感が春を感じさせてくれる。


心に春を呼び込めば、人は若々しくしていられるものかしら?
でも、どんなふうにして?
長年連れ添った夫婦にマンネリの風が吹いたり、
ロマンの香りの無い婚約や、惰性での結婚、
逆恨みの中、生き直すことへのエネルギーが隠れていたり、
たわいない浮いた駆け引きの中に、死への恐怖が隠れていたり。


ノーマン・ジュイソンは洒脱な枯淡の味わいで、
下手するとおどろおどろしい恋愛と家族模様を
さらりとさわやかに描き切っている。
夜の大捜査線」の緊張と人種差別。
「屋根の上のバイオリン引き」で描いた人生の哀歓。
ジーザス・クライスト・スーパースター」で切り取って見せた
等身大で生身のキリスト像
いつでも彼は、人種間の偏見と葛藤、家族愛・人間の苦悩を描く。
今回は、いつものテーマが何と軽やかに描かれていることか。
           


ああ、でもこの映画も、公開されてから20年近く経つわけね。
歳を取るはず。ちょっとがっくり来る。
長すぎた春どころか、遅すぎた春、ちっとも来ない春、
私はいつも一人で仕事をしていた。
仕事だけがパートナーだった、滅私奉公時代。
私には「イタリア人気質」が欠けていたなあ。


人はパンのみに生くるにあらず、美味しいスープも必要よ!と
開き直る強さも、激情に身を委ねるプッツン感も、
直情径行で突っ走っていく勢いもなく、
中途半端で、くたくたになって、やっと1年の終わり、
次への見通しを持てないまま、
年度末を繰り返すだけの春を重ねた20代から30代。


もう、私は〆の少し見えかかってきた年齢。
動かしたくても自由に軽やかに体が動くという所から
既に、ほんの少し重心がずれてしまった世代。
「家族に乾杯」と杯を挙げて、心の中に春を呼び込む、
そんな食卓を囲みたい、今日この頃。