Festina Lente2

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今頃は?

建物の中で仕事をしていると、小鳥の声なんて聞こえない。
もっとも雀だって珍しくなってしまった今日び、
ごみ漁りのカラスぐらいが関の山。
ちょっと田舎の都会、都会の田舎の我が家では
たまに鶯の声を聞くことができる。
でも、ひばりやホトトギスはさっぱり。
急速に進む宅地造成で野原や田んぼがどんどん消える。
小鳥の声は聞こえない。


キャンプ中、バードウオッチングの解説をして下さった方の話。
かつて鳥類研究所に勤務されていた皇室の姫君は、
やはりカスミ網をかける資格を持たれていたので、
皇居内で鳥類の研究をされていたとのこと。
皇居は誰もが入ることが出来るわけではないし、
都会の中の自然が保たれている皇居内の生物環境は
研究としては貴重なので、その筋の方から期待されていた。


しかし、ご結婚と共にパート勤務から退職。
お住まいから勤務地が遠いとのことで、警護の関係等、
様々な問題から鳥類研究のお仕事を続けるという事は
難しくなってしまったらしい、残念なことだという。
この研究所の委託で活動している彼女は、
「好きでなかったら続けられない仕事だしねえ」と
寂しそうに笑っていた。


鳥にはダニが付いていて、血を吸ったりするのではなくて、
羽毛の中のごみの様な、ちょっとしたものを食べている
羽毛ダニというものがいるそうな。
で、それは鳥の種類ごとにみんな違うダニで、
一子相伝というか、母親が孵した卵から生まれた雛に
代々伝わっていくダニなので、遺伝子の研究に一役買っているとか。


鳥の研究だから鳥だけしか調べない、という訳ではない。
鳥を中心に見据えた周りの環境との研究は様々。
寿命、生態系、足輪をつけて放せば事足りるものではない。
そんな話を聞いた後だったせいか、
連休中に吹上御苑で初の自然観察会の記事が目に付いた。

皇居・吹上御苑の生き物

皇居・吹上御苑の生き物


天皇、皇后両陛下が皇居の自然に触れ、
自然への理解を深めてもらおうとの意向を示し、
政府の「みどりの月間」の一環として実現した観察会。
4万人余りが応募し、選ばれた大人と子供、のべ186人。
2日間、6回に分けて小グループごとに、
専門家の案内のもと、1時間半の観察会が催されたという。
都内の巨木の2割があり、オオタカも生息という吹上御苑
昭和天皇のご意向から、70年間手付かずの自然だとか。


専門家である研究者として、かの姫君が率先して
もっと早く、こういう活動をされていたら・・・。
研究を続けられていたら・・・。
しかし、仕事と家庭との両立は難しいだろう。
降嫁された身とあっては、ましてや、
目立たずに暮らしたいと願っておられるのなら。


女性としての幸福と、自分自身が成し遂げたいこと。
一致する部分もあれば、そうでない部分も。
皇室に生まれていなければ・・・いや、しかし今も、
一般人となられた今も、制約・束縛はあるだろう。
課された避けられないものも、自ら課すものも。


仕事のための別居婚保育所・親の援助など
当たり前のような今の時代でも、
その壁を乗り越えて、仕事と家庭を両立させるのは難しい。
まして、彼女が。


・・・今、住まわれている所では、
御所のように、小鳥の声は聞こえないだろう。
その姿も見えないだろう。
研究を趣味に変えるのは、とても辛く難しいことだ。
(と、私は思っている)
むろん何らかの形で勉強は続けられても、
今までと同じように研究は続けられない。
何ものにも代え難く、今の生活を大切にされておられると、
そうには違いないだろうけれど。


バードウオッチングの解説者の、彼女は呟いた。
「惜しい方を、なくしました」そう、言った。
研究者の世界から、鳥を愛する世界の人からすれば
そういう思い、そういう感覚だったのだろう。
いい研究をしていた仲間、それも同じ女性の身で、
貴重な場所で貴重な研究をされていた、
頑張っていた仲間を失ってしまった。
そういう思いが強かったのだろう。


卵を3つ産みながら、何かの事情で巣を捨ててしまった
ジュウシマツの巣箱。本来ならば10個ほど産むはずなのに、
蛇かねずみに驚いたのか、親鳥はどこかへ行ってしまった。
「鳥の世界も住宅難で、巣箱は高級住宅なのに
 こういうこともあるんですよ。
 自然は、何が起こるかわからないから」と解説員の方。


孵らない卵。孵されることのない卵。
せっかく産んだのに、暖められることのない卵。
飛んで行った親鳥はどこへ行ってしまったのか。
新しい巣で卵を孵しているだろうか。
その巣は安全で居心地がいいのだろうか。
子育てに向いているのだろうか。
元気に暮らしているのだろうか。


小鳥の話と自然観察と皇室の姫君。
連休中にリンクして、ちょっと心に残った話。
私にとっても、少し切ない。

とんぼの本 皇居の森

とんぼの本 皇居の森