Festina Lente2

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修復という景観の果ては


ダブルブッキングで、思いもよらず時間ができた日曜日のこと
じたばたしてもどうしようもないから、モーニング兼ランチ。
そこで普段は読まない雑誌を手にする。


「明日への神話」どこかで聞いたことがある、この言葉。
家人宅のある町は、マンホールにかわいい「太陽の塔」の
模様がある。そう、万博公園のお膝元だから。
そこで、どうしても忘れちゃならないのが岡本太郎
芸術は爆発だ!」で、お馴染みだったおじさんだ。
彼の傑作といわれている作品が、メキシコに放置されていて、
それが日本に帰ってきた・・・というニュースは知っていた。
ちらりとテレビでも見た。


彼の養女が、必死の努力で見つけて持ち帰って、修復を頼んで・・・。
その結果・・・。そう、絵画修復士へのインタビュー記事。
絵画の修復に関するニュース・知識は、本当に久々。
特集ミケランジェロ最後の審判」や、
レオナルド・ダ・ビンチの「最後の晩餐」修復を聞いたことがある程度。
外国は進んでいるんだなあ、日本はあの高松塚古墳だって
きちんと保存もできず、結局ぼろぼろにしたんだから
修復技術なんて今一つなんだろうなあ、程度のイメージが強い。


昔の技法を習得して、今の技術で修復する、
言葉の上では簡単だが、実際のイメージは沸いてこない。
あんまりぴんと来ない。だが、記事の添えられた写真は、
機械に囲まれ、まるでキャンバスが手術台のよう。
修復とは、単に絵筆と絵の具を必要とする職人芸ではなく、
脳外科手術と同じ顕微鏡を覗きながら、
緻密で微細な技を施すのだと知って、びっくり。
絵画の修復は、マイクロサージェリー並の技術を要する。
つまり、瀕死の絵画を「手術して蘇らせる」に匹敵するらしい。

今日の芸術―時代を創造するものは誰か (光文社知恵の森文庫)

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美の呪力 (新潮文庫)

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半端じゃない。芸術品を助けるということは、なまなかじゃない。
・・・でも、目に見える結果がはっきりわかる仕事はいいなあ。
・・・残る仕事はいいなあ。
そう、この仕事に就いた時、友人から言われたのが忘れられない。
結果がわからない仕事だから、評価のしようが難しくて、
自分でも達成感や満足感が掴みにくい仕事だよね。
そういうのしんどくて、疲れるよねって。
遥か昔に言われた言葉を、この記事で突然思い出した。


目に見える仕事はイメージしやすい。段取りも付け易い。
シミュレーションを立て易い、持ち易い、とにかく具体的になり易い。
「明日への神話」か。・・・明日のことも、未来のことも、
イメージし易ければ、目標として有効なんだろうな。
言葉の上だけで、字面の上だけで流れていっても、
具体的にイメージできないとなれば、「思い」は共有できないから。


目に見える形で結果を出せる仕事は、結束しやすい。
結果をアピールし易い。行う側も行われる側も、
共有可能なイメージの元、一体感も達成感も合わせ持つ。
結果を形で残せる仕事、利益がはっきりわかる仕事が羨ましい。
何かをわかりやすい形で伝えられるという、具体性、機能性、
即効性、その他諸々。


でも、どんなに多くの人がかかわっていても、具体的に目に見える形が
残らなければ、空気のように当たり前に享受されて終わり。
誰も何に対しても気に留めない、感謝しない。
一人歩きするイメージは、私たちの仕事の上を通り越して、
何かしらの抽象的な概念に収束されて、具体的なイメージは、
「いたいのいたいの、飛んで行け」の呪文ほどにも、持ち得ない。


折りしもXPからVISTAの時代。
Experience (エクスペリエンス)からVistaヴィスタ)へ。
特別な経験、すばらしい経験から広がる、
どんな景観・眺望・眺めを持てるというのだろう。
言葉よりも具体的なイメージを、
機械は脳の代わりに提供してくれるのだろうか。
コンピューターは「明日への神話」を演出する、
神の小道具として活躍するのだろうか。


今の仕事に明日へのイメージを見出すことは、難しい。
神話に昇華するほどの、何ものもありはしないから。
何を修復し、何を回復させ、何を目指すというのか。
この仕事の未来は? この修復とはいえない作業の果てには
どんな景色が広がっているのだろうか。

壁を破る言葉

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強く生きる言葉

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