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萩尾望都の新作『山へ行く』

音楽教室へ娘をピックアップに向かい、耳鼻科を済ませ、
写真を受け取り、別の写真屋へ現像を出しに行き、
(私は今だにフィルムカメラ派)出来上がりまで30分。
近くの本屋で見つけた、久々萩尾望都の新作。
残酷な神が支配する』以外は、全部持っているファンの私。
当然初版本でゲット。
しかし、この一連の作品は・・・。


昔から心理もの、心理小物、心理的掌編ともいうべき作品が多い彼女。
こういう単発の作品をシリーズ化してきたか・・・。
帯にはこう書いてある。
昨日の続きじゃない「今日」
今日の続きじゃない「明日」

なるほど、こう来たか。


どの作品も、お子様向けの作品ではない。
かつてのミュージカル仕立てのコミカルさよりも、
『あぶない坂の家』や『海のアリア』の時よりも、
不安定で不穏な人の心、家庭、人間関係、
ちょいと人生の盛りを過ぎたからこそ、
かつて感じなかったようなことを見たり聞いたりする、
そんな感性をちょいと刺激、或いは逆撫でするような作品。


倉橋由美子、梨木果歩、山岸涼子佐藤史生
それに、星新一藤沢周平を一緒にしたような味わいだ
と言ったら、萩尾望都に失礼かな。
ちょっと、そんな感じがした。あ、畠中恵も少し入っているかな。
決して後ろ向きでは無いけれど、かといって思いっきり前向きではない。
そんなメッセージの数々、「揺れる思い」が、心の琴線に引っかかる。

山へ行く (flowers comicsシリーズここではない・どこか 1)

山へ行く (flowers comicsシリーズここではない・どこか 1)

バルバラ異界 (1) (flowers comics)

バルバラ異界 (1) (flowers comics)

金銀砂岸

金銀砂岸

例えば、山に行こうと思っても行けないのは私の日常。
宇宙船の運転免許証は持っていないけれど、
タイムカプセルを心待ちにし、「時をかける少女」でありたいと
今でも願っているのは私。パラレルワールドにファンタジー
SFにメルヘン。届きそうで届かないメッセージ。


かつての『アロイス』や『メッシュ』に見られるような、
ややニヒルな、乾いた路線ではなくて、
どちらかと言うとウエットでシャイな主人公達。
普通、女性作家が描くアニムスは一つのイメージで固まるけれど、
漫画家が描くキャラクターは性格ごとに顔が似ているので、
役割分担がクリアで、連想しやすい。
登場人物各々が、いつもの言動をキャラクターに投影して、
ストーリー展開。といっても、作品を読み込んでいるから、
そう感じるのであって、作者の意図は違うのかもしれないだろうが。


それにしても「くろいひつじ」は胸にずしりとこたえたなあ。
最後の「柳の木」は、かーちゃんとしては泣けるなあ。
ちょっと、『三十三間堂棟由来』を思い出させるけれどね。
いずれにせよ、この小作品集、『バルバラ異界』ほど衝撃的でなくても、
萩尾望都らしい作品集として、楽しめます。
表紙のやや虚ろな男性の眼差しと、緑色の背景が際立つ装丁。


次の大きな作品まで、構想を練る間の手慣らし足慣らし、
頭慣らしといった感の、やや軽めのタッチで描かれた、
それでいて、心の奥にズンと来るいつもの感触。
食べなれた定食を久しぶりに味わったような、
そんな読後感。『山へ行く』だった。

海のアリア (1) (小学館文庫)

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半神 (小学館文庫)

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イグアナの娘 (PFコミックス)

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