Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

眼鏡店、プロの仕事

馴染みの眼鏡屋に行く。10年以上のお付き合い。
ちょっとしたフレームの歪み、、何となくの見えにくさも、
この店の調整で治ってしまう。
よその店だとダメというか、眼鏡が顔にフィットしない。
気持ちよく、視野が得られない。
作って貰った店でないと調整ができないはずはない。が、
実際そうなのだから、どうしようもない時は少し離れたこの店へ。


今日も今日とて、あっさりと眼鏡の調整が終わった。
検査と説明は丁寧。読書用眼鏡の可能性も十分に検討。
結局は、もう少し様子見という事になった。


私の眼鏡は、多くの眼鏡屋さんには嫌われもの。
特に若い店員さんの中には、
「今時こんな眼鏡を使う人は居ない」という人も。
何故か? 薄さを追及した重いガラスのレンズだから。
軽いプラスチックのレンズが主流の中で、
何故負担が大きいガラスのレンズか。
作った当時は、ガラスよりプラスチックのレンズが分厚かったから。
おまけに、特注でないと強近視と強乱視のレンズは手に入らない。
見た目薄く、傷つきにくいガラスレンズが少々重くても好きだった。


私の目は悪い。0.01を切る裸眼視力。いわゆるど近眼。
結婚前まではコンタクトも使ったが、育児中は眼鏡生活。
しかし、寄る年波には勝てぬ。否が応でも手許が心許ない。
近視用の眼鏡は、運転もあり遠くを見ることが前提。
職場PC、家のノートPCは、自分用に見易い大きさの字にしている。


この頃めっきり本が読めなくなってきた。
図書館でついつい「大きな文字の本」コーナーに目が行く。
避けられない宿命、無駄な抵抗。
老眼の前には、自分用にカスタマイズできる本などありはしない。
それに私はパソコンや携帯で「読書」はしない。
断固、「紙の本」派なのだ。


実は、行きつけの店にいつもの店長は居なかった。
初めて会う若い店員、アロハシャツ姿の若いにーちゃんが2人。
サマーセール中だとはいえ、随分だなあという砕けた雰囲気。
取りあえず用件を述べる。
スペアの眼鏡がきつく感じられてよく見えないこと。
眼科ではまだ読書用は必要ないと言われているが、
実際見えにくいことが増えてきて、悩んでいること。
検診では左右の視力の差が大きいと言われていること、など。
取りあえず、「僕でよければ」というにーちゃんに
過去のデータを元に調べて貰った。

眼ウォーキング

眼ウォーキング


しばらく来ないうちに新しく導入された機械、検査。
片方ずつではなくて、両眼一度にバランスを見る視力測定。
「失礼ですが、お年を聞いてもいいでしょうか」
・・・隠したって、今更何にもならない。
何度も何度も薄いレンズを組み合わせて、読書用の眼鏡を作る。
なるほど多少手元の文字が大きくなったような気はするが、
遠くが全然見えないぼやけた感じが、逆にまた怖い。
遠近両用眼鏡が必要なほどでもなく、何となく手元不如意な、
心許ないこの微妙な感覚を何と言い表せばいいのか。


にーちゃんも、10年来の眼科医の方がお客様の目を良く知っているし、
処方箋が出てからでもすぐに眼鏡は作られるわけだから、
今日、今すぐにどうこうする必要は無いと言ってくれた。
そしてスペアの眼鏡のフレームと鼻への係り具合、目との距離を
何度も細かく調整して、普段用とほぼ変わり無い見え具合に。


「僕達は医者ではないので、できる限りのことをして、
 お客様が快適に見えるようにすることが仕事ですから。
 お金を頂いて品物を誂えるので、今の状態で必要がなければ、
 無理にお勧めすることはできません。」
そういう彼も、サマーバーゲンセール中のいでたち?
アロハシャツ姿には抵抗があったのか、
「一応こんな格好はしていますけれど、真面目に仕事をしているんですよ」と
自分から言うので、私のおばちゃん心はくすぐられた。(笑)


ともかく、老眼は「40代最後の抵抗」と言われている。
体にあちこち「ガタ」が来ている中で、「見えにくい」という事実は、
「いずれもっと見えなくなる」ことを前提としているのが
わかっているだけに、辛い。
「読書用眼鏡」などとソフトな言い方をしても、老眼鏡は老眼鏡。
その補助がなければ、読み書きに差し障りがある歳になった証拠。
若さを失っていることを否が応でも受け入れなければならない。
いくら眼科でまだ必要ないからもう少し頑張るようにと言われても、
色んな意味で自信を失くして来ている私に、
「もう少し様子を見ましょう。微妙な境目のようですから」と
言って貰ったことが、どれだけ有り難い事だったか。


「セール中だから、今のうちに一つ作っておきませんか」
なんて発言はなかった。
「読書用眼鏡は、皆さん部屋の中でしか使わないので
 人目を気にする必要が無いせいか、
 お好みのやや派手目のデザインを選ばれる方が多いですよ」
という事は言っていたが。
そして、下ばかり向くことが多い読書用眼鏡こそ、
ガラスレンズではなくて、多少厚めでも
軽いプラスチックレンズがお勧めですと、付け加えてくれた。


完璧な仕事振り。眼科の見たてを立てながらも、再度検査を元に
自分達店側ができる範囲を説明する能力、
客の不安、老眼鏡を作る際の心理的な抵抗、
疑問やためらい、見当違いな質問、
今後眼科医や店とどのように付き合っていけばいいか
などに対して、根気良く応対する力。


感服に値する。この間約2時間弱、検査・相談は無料。
医療機関、カウンセリング機関ではありえない。


私が次の眼鏡もこの店で作ることは間違いない。
若い店員がこのように接客できるという事は、本人の資質だけではなく、
普段からどのように仕込まれているか、眼鏡を扱うプロとして、
上の人間からどのような薫陶を日頃受けているか、
察して余りあるものがある。
私が受けた接客内容は、紛れもなくプロの対応。


改めて考えてみると、眼鏡店は補聴器も扱っている。
(正常な状態と比べて)見えない聞こえないというハンディキャップを補い、
快適に生活するためには、商品である機器の取り扱い説明や
予算等の金銭的な折り合いを付ける前に、
これからその道具を元にどのようにQOLを維持していくか、
不安になっている客の心理をフォローして、初めて商談が成り立つ。
眼鏡や補聴器を掛けることで容貌に、雰囲気に、自分の体に
劣等感や違和感を感じる人間は多いはずだ。
みんながみんな、単純な身体機能の補助やおしゃれの目的で、
眼鏡や補聴器を使用するわけではないのだから。

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やはり10年以上の付き合いがある鍼灸整骨院
服薬よりも体を温めしっかり食べていれば大丈夫な体だと声掛け、
テーピングで手足や肩・腰を微調整してくれる。
私が黙っていると、今日は大人しいねと水を向けてくる。
彼は、私が家庭内で抱えている不安の源を殆ど知っている。
何故、無理をするか、してしまうか、せざるを得ないか、
仕事内容は勿論承知の上で、「声掛け」をしてくれている。


検査結果だけ伝え、自助努力を強制して不安感だけ煽り、
決して体に触れることなく放り出す、どこぞの内科医より
今日の眼鏡屋のにーちゃんは、遥かにプロだった。
彼は商売道具である眼鏡が、客の目、視野、
見える世界そのものを支えていることを良く心得ていた。
店の方針(診療方針)、次に来店するタイミング(治療計画・見通し)、
スペアの眼鏡の調整(現段階で可能な治療・フォロー)、
この状態で様子を見て、また何かあればと言われたら、
自分の体調と相談しながら、安心して生活する患者の心境。


そんなこんなでメンテをしながら、生活は続く。
まだ読めるはず、もう少し頑張ってみようと思いながら。
私は自分の体と折り合いを付け、ちょっとしたフォローを受け
そのプラスのストロークを元に、凹みがちな書類仕事に向かう。

養老孟司の“逆さメガネ” (PHP新書)

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