Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

箱庭からはみ出た人形達

本日の研修、子連れ。何しろ学童はお休み。お盆だから。
もっとも、8月は学童お休みさせているけれど。
という訳で、本日箱庭。人形達を見ながらぼんやり考える。
特に人形を用意しなくても、プレイセラピー的な光景は、
日常よく目にするものだ。お人形さんごっこ、おままごと。
何が投影されるって、その子の如実な家庭風景、家族関係。


梨木香歩の名作『りかさん』の中で、
「お人形さん遊びをしないで育った子は」云々の
くだりがあったかと思う。人形に無意識に為される投影が、
ストレスの発散であったり、バランスをとるために必要であったり、
心という内的環境を活性化させるために必要なのは、
言わずもがなであろう。


ぬいぐるみやキャラクターグッズが手離せない、心理構造。
大人でも、ケータイに山のように付けているストラップ。
電車の中でもそういうものにちらりと目をやって、
様々憶測を凝らしている自分に気が付く。
移行対象、依存対象、投影、お守り、幸運の種、魔よけ、
どんな呼び名から解釈しようが、物語は始まる。
モノが語り始める。

りかさん (新潮文庫)

りかさん (新潮文庫)

からくりからくさ (新潮文庫)

からくりからくさ (新潮文庫)


研修中、小さな人形一つにも色んな言葉が投げ掛けられる。
「最近、○○の国が嫌いだからこの人形が好きになれない」
そう、・・・本当にそうなのかな? 
「生活のために働いているって感じが嫌なの」
それは国のイメージからだろうか。
例えばこんな風に、民族衣装を身につけた3cmほどの人形は
何かを投影されている。


生き物、そうペットだって同じこと。
何かの代わりであったり、対象であってこそ存在意義が有る。
萩尾望都の「トーマの心臓」の番外編「訪問者」では、
「お母さんは僕を飼っている、お父さんは犬を飼っている、
 僕だけ何も飼っていない」というようなくだりが有る。
家族の問題を鋭く切り込み、心理描写に長けたせりふ・絵柄を
駆使したストーリー漫画は、下手な心理学レポートより雄弁だ。
4半世紀も前の作品だけれど。

訪問者 (小学館文庫)

訪問者 (小学館文庫)

代償、贖(あがな)い、置換、脳をごまかすための行為、
意識をコントロールし、生活を維持し、自分を納得させ、
嘘を嘘ともせず、幻想をジンクスを、愛と憎しみを入れ替え、
求めても得られないものを夢見て、悪あがきすることを避け、
もしくは直面し、砕け散り、拾い集め。


そんなことを考えながら、研修を終え、箱庭からはみ出した
ある意味守りのない、手の付けようのない世界に戻っていく。
ふと思い出す。壁が崩れた国から持って帰ったテディベア。
中欧に新婚旅行、最後の国ドイツ、3度目のベルリン。
水色の衣装を着た親子の熊のぬいぐるみは、
子授けのお守りをぶら下げられ、私と旅行した。
それから1年で、私に娘を連れて来てくれた。

だれも欲しがらなかったテディベア

だれも欲しがらなかったテディベア

さてさて、わが娘はどうなるのであろうか。
テディベアなど持たずに育った娘。
実は生まれた時に記念に貰ったものが有る。
大きすぎて飾れなかったまま、今に至る。
娘は他のぬいぐるみ達を飾っていた頃を忘れてしまい、
引越しの度にかわいい、幼い頃の思い出は梱包され。
今回の片付けものの合間に出てくる品々に
涙するかーちゃんは、冷ややかに見つめられている。


過去に涙するかーちゃんを見つめる目は、
未来だけに目を向けている、午前中の時計を持った娘。
私の時計は、午後3時のお茶会を回ってしまっている。
「うちには思い出の品が有りすぎるよ」と豪語する娘は、
思い出という過去にこだわるかーちゃんが、疎ましい。
13cm靴なんてと笑う彼女の足は、もはや22cm。
私とそれほど変わりはしない、あと1ヶ月もすれば8歳の足だ。

人形の家 (岩波少年文庫)

人形の家 (岩波少年文庫)

娘は人形ではない。自分の人生を生きている人間。
私の幻想の箱庭からとっくにはみ出して、
自分の足で歩いている。
文句言いになり、ふてくされる顔が増えてきたのも、
他人の意のままにならない自我の現れであり、
意思表示であり、日々自分なりの壁にぶち当たってのこと。


私は娘を飼っているのではない。育てているつもり。
だが、できていないことは多い、できないことも多い。
それでも、生活は辻褄を合わせられる。
心の成長までは見えないが・・・。
だから、祈るしかない。
今日のこの日、憲法9条に込められた願いが守られるように。
平和で民主的な国で、健やかに大きくなるようにと。
再び、人が国の人形となって動かされるだけの存在にならないように。

オットー―戦火をくぐったテディベア (児童図書館・絵本の部屋)

オットー―戦火をくぐったテディベア (児童図書館・絵本の部屋)

ヒルベルという子がいた (偕成社文庫)

ヒルベルという子がいた (偕成社文庫)