Festina Lente2

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記憶の底の抜歯体験

再び歯の話題で恐縮です。
しかし、今度は唯一痛くなかった抜歯経験。
それを忘れていた話です。
・・・というのは、そういう経験があったのを忘れていたから。
どうして忘れていたのか、自分なりに考えていたら、
記憶の底から、多分当時の私が忘れてしまいたかったのだろうという
出来事が蘇ってきました。


永久歯の抜歯は矯正が難しいと、犬歯を抜かれたのです。
そのほかに、永久歯が生えてくるはずなのに
なかなか抜けない頑固な子どもの歯。・・・抜かれました。
余りに抜かれたので、すっかり歯医者嫌いです。
親も無知でしたから、歯並びの悪さは遺伝と決め付け、
歯医者には「弱い歯だなあ」とか、
「唾液の質に問題があるから検査しよう」など、
自分の歯については全く自己肯定感など無縁の世界。


一度だけ、小学生の半ば、痛く無い抜歯体験。
その先生小学校の通学路にある、矯正の先生とは別の
初めて掛かる先生でした。どういう理由でどの歯を抜いたか、
全く記憶にありません。でも、先生は、「痛くないよ、大丈夫、
ほらじーっとこれを見てご覧、1から10まで数えているうち、
ちくりとしたら、もう痛くないよ。
・・・・・・ほら、もう抜けたからね」

鏡の法則 人生のどんな問題も解決する魔法のルール

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今から思えば、強烈に暗示をかけられたか催眠術だったのか、
何か別の方向を見ているうちに、注射されたみたい。
とにかく、恐怖心を感じさせないようにうまくあれこれ
子どもに話かけていた先生だったと思います。
なのに、その先生に抜歯された経験を昨日まで忘れていた私。
痛くない唯一の抜歯経験は、どうして封印されていたのか。


その先生の所に私が通ったのは、後にも先にもその1度だけ。
消毒や虫歯で通った記憶はありません。
もしかしたら、もう少し通っていたかもしれないのに、
小学生時代2件の歯医者しか通っていなかったはずなのに、
どうしてすっぽり抜け落ちていたのか。


思い出したのです。
小学校高学年、その歯医者さんは閉められました。
いつの間にか、診療しなくなっていました。
通学路にあったので、子ども達の間に噂が飛び交いました。
その噂は噂ですから当てにならないけれど、
今から思えば真偽も定かではないけれど、
おそらく当時の私にはかなりショックだったのでしょう。


歯医者さんは首吊り自殺をしたという噂でした。
歯科医院の中で首を吊って亡くなっていたという・・・。
もう一つ付録があって、家庭内の不和を苦にしてというのも
まことしやかに流されていました。
殺人事件が起こったのだという話も流れました。
噂はスキャンダラスで、子供向きではなかったのです。
真偽のほどは確かではありません。大人から聞いたのか、
子供どうしだけで話したのか、それさえもわかりません。


街中の、椅子が一つだけの小さな歯医者さんだったと思います。
民家を改造したような、昔の歯医者さん。
先生はお幾つぐらいの方だったでしょう。
全く覚えていないけれど、今の私ぐらい?
もっと若かったのか、年をとっていたのか。
覚えているのは、というか思い出したのは、
「痛くはないよ、大丈夫」と子供に話しかけて
抜いてくれた歯医者さんがいたことです。


仕事で忙しい両親は、いつも私を一人で行動させ、
歯医者に行く私に付き添ってくれたことはなく、
医者は怖いところでした。
思い切り痛くて泣いた別の歯医者は、治療後、
子どもに飴やドーナツをくれたりしました。
今から思えばその治療も笑えますが、
抜歯の恐ろしい記憶と痛さだけは消えませんでした。


なのに、唯一痛く無かった先生の記憶は、
何十年も失われていました。
怖い噂がそうさせたのかもしれません。
その噂も都市伝説や、学校の怪談の類だったのかも。
でも、真偽のほどは定かではなくても、
私が無意識に記憶を封印していたのは確かで。


とにかく、その歯医者さんはいつの間にか消えてしまい、
痛くなかった抜歯の記憶も消えました。
でも、今、痛くない治療を受けた私は思い出しました。
先生、子供の時に痛くない治療をしてくれたのに、
忘れてしまっていてごめんなさい。
何があったかより、事件の有無より、
いい治療をしてもらったことを忘れていて。


小学生の頃の歯科医の記憶です。
いつの間にか、忘れたい景色の中に封じ込められていた・・・。

忘れる技術―思い出したくない過去を乗り越える11の方法

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